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「時間が交錯する話の進み方が好き...」、@mocks93182772 さんからのスレッド

時間が交錯する話の進み方が好きなので、あかいが早めにfbあいを引退して小説家になる話が読みたい。
50過ぎたくらいの歳で1つのシリーズだけ書いてる。
顔出しをしていなかったのだけど、シリーズの新作と同時に初めて作者がインタビューを受けると言うので女記者が郊外の丘の上の人里離れた一軒家に

「こんな所に住んでるのか…」って訪れるとそこには渋くも人を惹き寄せる上品かつワイルドな男性が。
「よく来たね」って迎える声もとてもセクシーで、あまり人と合わず隠居生活みたいな彼が信じられない。
お手伝いの60半ばのわりに元気すぎる女の人しか一軒家にはいなかった。

喋れば喋るほど

落ち着いていて大人の余裕がある彼が独りでここにいるのが不思議だ。

喋ると意外と気さくで仕事も捗り緊張していたが予想外に心地よい時間となった

「先生は、その…恋人やご結婚などは…」

新作の取材が終わり、アフタヌーンティーをしながら何でも聞いてくれという彼につい出てしまった好奇心。

そんな不躾な質問にも動じることなく男は柔らかく笑い口を開いた。

「君には俺がどういう風に見えるかな」

その質問に少しドキリとする。
ただなんとなく許されるかと思い思ったままに答えた。

「想像以上に…素敵な男性でびっくりしました…余裕のある大人の男性というか。華々しい経歴も

才能も、それに優れた容姿もお持ちの方で、ただ風変わりな生活をされていて意外でした」

海外での生活も長かったので真っ直ぐに伝える度胸には自信がある。
自分の言葉で伝えたのだ、届くだろうか。

そう思い彼の瞳を捉えると歳上の男はまた楽しそうに笑いかけてくれた。

「余裕のある大人か…」

窓の外に目をやるとそこには海が広がっている。

ただ丘に続く道の草木がそよぎ、波の音は届かないが目に見えた。

「きっと、それは俺が今何も持たないからだと思うよ」

目を伏せる男は左利きだ。
どこかその仕草に懐かしさを覚えた

「何も、持たない…」

「もしくはひとつだけを願っている」

ドアがノックする音が響き、明るい声が顔をのぞかせた。

「先生!旦那が迎えに来る時間なので、これで」

彼女は笑顔以外の表情は思い出せない程気持ちのいい女性だ。
サッパリしていてふくよかな体つきも理想の母親のような安心感がある

「あぁ、ありがとう、気をつけて」

男は手をあげて挨拶し

家政婦の彼女はごゆっくり!と記者に挨拶をし慣れたように訪れた車に乗って丘を下って行った。

「息子さんと交互に迎えが来るんだ。この先の海辺で商売をしていてね。家までの道を少し外れたとこりにこの家があるというわけだ」

ついていたよ、と楽しそうに説明する作家は先ほどの少し切なげな

空気を置いてけぼりにした。

「それで、何だったかな」

「先生が何も持たない、もしくはひとつだけ願っているということです」

記者の女は食い気味に答えた。
それだけ彼の真実に興味があったのだ。許されるなら見てみたい。あの物語を作る彼の中身を。

「あぁ。それだね。……次で最後なんだ。

実はもう作ってあってね。読んで帰るか?」

簡単に本棚から取り出した、世の人間が喉から手が出る程に欲しいであろう未発表の最新作であり最終巻が目の前に突き出された。

「えっ…ゴホッ…!い、いいんですか?!」

両手でそれを受け取ると男は気にした様子もなく答える。

「あぁ、元から取材を受けることにした時から俺の物語は書き終えているし、その相手に色々聞いてみたかったんだ。あと、聞いてもらいたかった、かな…」

寂しげな男がそう呟けばどれだけの人間がこの辺鄙なところまで駆けつけるだろうか。

しかし、記者の女はその魅力を理解しながらも彼の

ミステリアスな真実だけを追い求めたかった。それがもしかしたら、今回唯一の取材に自分が選ばれた理由なのかもしれない。

「…拝読します…」

「どうぞ。今からBGMとしてオフレコの話をするよ。俺自身について、これの作者として君には話してもいいかもしれない。その探究心に敬意を込めて。

目を細めた男は窓を開けて初めて煙草を手に取った。
記者は手の中にある本の1ページ目を開きながらチラリとそれを認めてまた本に目線を戻した。

(なんてことだ…すごい状況に、なっちゃった…)

自分の役割を思い出す。
この物語を目一杯満喫しながら、彼の独り言に耳を貸す。
改めて考えても

難易度は高い。

「…これは、今ここにいる男がこうしている理由でもある。20年ほど前のことだった。」

余裕のある、穏やかで寡黙な大人の男がかつて激動の中で激情の渦にいた頃の話だ。

それは30を過ぎた頃。
若く未熟でもなかったが、事実、自分の選択に今も納得出来ない哀れな男が出会った

ひとつの出来事だった。

それは捜査官である男が、念願の組織の壊滅という大仕事を終えてひとつの祭りの後を過ごしていた時の事だった。

「単独の任務だ。どうだ、出来るか」

親しんだ尊敬する直属の上司ではない男に呼び出され持ちかけられた任務はあまり穏やかとは言えないものだった。

「……彼から情報を?…正直難しいかと」

男は続ける。

「しかし、君ほど彼に詳しい男はいないと思うよ。まあ、こちらも成功すれば儲けものだな、という認識だ。……あとは、この任務を君に相談したのにはもう一つ理由があってね。」

ふるやれいの単独入手の情報を手に入れるだって?

しかもどこから聞きつけたのか、まだけいさつ自体への情報共有が未だの裏取り中のグレーなものだ。

「父上の失踪時に関連した機関の情報だ。欲しくはないか?」

ここで聞くことになるとは思わなかったプライベートな理由にあかいしゅういちは目を静かに見開いた。

「……関連が?」

男は面白そうに笑った。

「かなり貴重だよ」

侮れないね、日本のスパイも。

そう簡単に言ってのける上司にあかいはいくつかの感情を抱いたが、今はそれを無かった事に出来るぐらいには動揺していた。

(噂には聞いたことがあったが、本当にその機関の情報があるならこちらの手中におさめたい…)

所有権のまだない形のないその財産は今この場所で大きく行方をずらそうとされている。

(ふるやくん…バーボン…確かに彼ならそう言ったものを入手できるのかもしれない…)

かつて自分の前では少し不器用に荒々しく、真っ直ぐに向かって来た男。先の捜査では良く悪くもふるやれいと言う男について

何度も考察する必要があった。
二カ国を代表する捜査官同士手を組んだのは新しい話だ。

かと言って馴れ合う程には親しくはない。ただ自分たちには共有するものが多過ぎたのだ。

「曖昧なまま彼の情報を抜くか、共有するか。結果的にはうちにそれが入ればいい。やり方は任せるよ」

どんな話でも出だしから不穏であったこの任務に首を縦に振るつもりはあまりなかった。
しかし、中盤で雲行きは怪しくなる。

「潜入時も君はなんだといって上手くやってくれた」

あかいは己の白い拳を握りしめた。

人生で間違いをおかさなかったなんて、ことはない。
目的の為に選択をし、行動をして、失うものもあったし後悔もしてきた。

それを踏まえた上で今があると思うと後には退けなかった。

「口出しは、しないでくれますか。報告はします」

食えない上司は

ニコリと微笑んだ。

沢山の事を乗り越え終えたと思えたあかいしゅういちの人生で、それが全ての始まりだった。

つくづく自分はあまりこう言うことは得意ではないと思う。

彼に声をかけて目を見開かれた記憶が鮮明に思い出され居た堪れない。

「飲みに?僕と、2人でですか?」

突然職場で声をかけただけでも不自然なのに、いきなり飲みの誘いだ。
怪訝な顔の彼は思いっきりあかいの言葉を復唱した。

「…そうだと言ってる。それで、どうだろうか」

「どうだろうかって…」

もう少し上手い誘い文句はなかったのだろうか。自分が例えばイタリア人の血が流れていたなら。もう少し口も上手かったのかもしれない。
いや、彼は日本人だがとても口は上手い。その男がこんなにも戸惑っている。

「問題あるだろうか」

「いや、それはないですけど…どこに行くんですか?」

ふるやの怪しんだ眼差しは今でも思い出せる。それが自分と彼の正確な距離感であった。

「…それは、これから決める」

「…なんだそれ」

何も考えずに答えると意外とふるやはフハってと吹き出してそう笑って言った。

意外な好感触にあかいは目を見開いた。驚いてその笑顔を凝視するとふるやは気付いてすぐに照れたように
「何ですか」と機嫌が悪くなった。

慌ててあかいは「何でもない」と目を奪われた事を言わぬまま約束を取り付けることに成功した。

そして、これからはそう言った彼の発見に沢山出会い、

想像以上に彼は自分にふるやれいという人間を見せてくれたのだった。

ぎこちない初めての交友の誘いは予想以上に楽しく終わった。

彼はこんなに笑う男だったろうか。

悪く言えばハニートラップ。
この手のやり方は自分に向いていないと承知で、しかし思いつくものはなかった。

男同士でハニートラップだなんて、まあ着地点は色々だ。

親しくなり友人でもいい。
そう思いながら彼と過ごす日々がカレンダーの毎週末を埋めていき、

どう話せば上手くいくのかを
思いつかないまま振る舞うあかいに
想像以上に好感触なふるや。

時間が過ぎるにつれて当たり前のように2人の距離は

縮まった。

「それにしても、貴方いつも僕と飲んでいいんですかね」

彼は気持ちよく笑う男だった。
飾り気のないその笑顔はあれだけ共有するものが多かったのに初めて見たもので、それがふるやれいだけの顔であるとあかいも理解した。
そして、それを向けてもらえる貴重さもあかいの任務を

思い出させた。

「どういうことだ?」

「鈍いなぁ…例えば、恋人とかですよ。作らないのかな、って…」

そう口を尖らせる彼はとても愛くるしいキャラクターだ。
こんなに人を惹き寄せる人間だなんて以前の自分は理解していなかった。

色気のない居酒屋のカウンターで、いつものように

スーツ姿の彼と肩を並べて飲む酒は、実は人生のどの酒よりも楽しくはあった。

「あぁ。どうかな、俺はこう見えてあんまり得意じゃないから。」

恋愛とか。
素直にそう答えるとふるやは意味ありげにこちらを一度見た。
そして手元のグラスをカラカラと遊ばせて、知ってますよと呟く。

「君は?

そういう話、あんまり聞かないな」

そう、親しくならなくては。
彼が隙を見せるほどに。
この2ヶ月程はその準備期間。
彼の懐から、データを拝借できるのか、俺に。あの情報が入ったデータを。

「…僕こそ、あんまり得意じゃなくってですね。」

その時カランとグラスの中の氷が音を立てた。

「例えば、こんな風に1人と会って話すことなんて、あんまりない」

そう上目遣いにこちらを見るふるやの視線に覚えがないことはなかった。あかいしゅういちは恋を交わすのには不器用だが、恋を向けられる事には慣れている。
ふるやの視線にこれはいけるのでは、と浅ましい目的がよぎる。

(これは俺に

気がある人間の、眼差しだ)

少なくとも嫌ってはいない。

「…ホォ…なら、君と俺が付き合ったら…上手く埋めあえるかも、しれないな」

時間や理由、互いの欠けたものなど。それは口にはしなかった。

「…じゃあ、僕の恋人になる?あかいしゅういち」

そう言われ、居酒屋にも関わらず

その丸い後頭部を手で支え、思わずするつもりもなかったキスをした。

それは後に彼のファーストキスだったと聞く。

今でもあの嬉しいのか、恥ずかしいのか耳まで真っ赤になったあの表情を昨日のことのように思い出す。

それを思い出すたびに、切なさと胸が痛み愛しさで涙が滲むのだ。

ひとつの季節の変わり目が来た。

そばには彼がいる。

朝起きて何も身につけない彼が自分と同じシーツの中で、おはようと微笑む度にあかいは幸せで窒息しそうになる。
罪悪感を煙と一緒に吐き出してお日様を迎える。

彼の懐に手を差し込むのには慎重になり、達成はしていない

上司にも焦りはない

あの手の情報を固めるには時間はかかるだろう。
そういう見解だ。

「焦らずにじっくり仕留めてくれよ」

そう微笑む男にあかいは返事もせずに通信を切るばかりだった。無言のYESだ。

「あかい、何が欲しい?」

彼の初めての事を山ほどもらってからどれだけ経つだろうか。
体を割り開いたあの日、

その健気さが愛しくて興奮した自分が嫌で別れてから何度か吐いた。

着実に寄り添っている心は目的を失わず、2人の距離はあかいの野望の為に縮まっていく。

「何がって、なんだ?」

肩に頭を預かるふるやには随分と懐かれたと思う。しかし、彼も1人の優秀な捜査官だ。迂闊に仕事の領域には手を

伸ばせない。
そう思う事で決着と決別の時を正直に言うと延ばしていたような気もする。確実なタイミングで。、

「何って誕生日ですよ」

自分の生まれた日も忘れましたか?
そう悪戯に笑う彼のからかいは心地がいい。

「もうそんな時期か。何もいらないな」

もし可能なら、君を傷つけずに

情報が欲しい。

頭に浮かぶのはそんなことだけだった。

「欲がないですね、あなたって意外と純粋なんだから」

違うよ、れいくん。
俺は目的の為に君の心を利用している。こんなに俺に心を開いてくれている君の財産を狙う男なんだ。

私欲に心を売った、冷めきった人間なんだ。

そう思いながら

曖昧に微笑むしかできなかった。

「君が欲しいものは?」

俺のことなんて良い。
君のことを聞かせて。

任務の為だと言い聞かせながら、あかいが罪悪感の中で気晴らす為によくれいのことを話して欲しいとねだった。

そのため彼はせっくすの後やこうしたリラックスした時間にもよく自身の事に

ついて話してくれるようになった。

慕っていた女医のことや、学生時代のこと、幼なじみの彼のこと。
けいさつ学校での仲間たち、そして彼にはいずれの人間ももうそばにいないこと。

(君が俺に打ち明けてくれる全てにどれだけの価値があるだろうか)

あかいはれいの声が好きだった。真っ直ぐで

晴れやかな魅力を持つ彼。
自分の欲しているデータなんかよりも、とても尊いものを自分は享受しているのではないかと思う時もある。

「僕…は、未来が欲しいな」

ポツリと呟いたその言葉にあかいは想像を膨らませた

「昔観た映画の、丘の上の家がすごく素敵だったんです」

ふるやれいにしては

夢心地の物言いにあかいは耳を澄ませた。

「海が見えて、そこに住む人に会いにいくには、そこに用事がないと行かないようなところでさ。風変わりな人が住んでるんだ。」

彼はどんな未来を想像しているのだろうか。ギュッと繋がれた手から思い知るのは、きっと隣には自分を描いてくれているという

あたたかすぎる未来だった。

「あかいは潮風で髪がうねりそう」

ニヤリと笑う男に、よく分かったな、と微笑んでやると満足そうにまた話を続けた。

あかいは少し眠い、とごまかして目頭のあたりを強く押さえたのだった。

季節はあれから2つ変わった。

親しくなったら?
決行すべき目的を胸に秘めながら、あかいは毎朝腕中でスヤスヤと眠る見慣れた愛らしい顔を見つめて起きた。

(彼と俺との距離感は、頭打ちだ)

これ以上親しくなりようがあるだろうか

2人は誰に言うでもなく、そう言える程の仲になっていた

定期報告はいつもの調子だ。
いつも心の内では何を考えているかわからない上司がついに。
あかいに結果を求めたのは、突然のことだった。

「親睦を深める準備期間は終わっただろう」

最後通牒である。
あの時首を縦に振ってからは、あかいに拒否権はない。

「ホテルの部屋を用意しておいた。」

入手したデータは証拠も出ないように仲間の手にホテル内で手渡り行くのだろう。

あかいの情報によると、確かにれいは裏どりの最後を固めるのにここ最近データを肌身離さず持ち歩いているようだった。

「れい、今度の土曜日。久しぶりに外で食べようか。」

それと、部屋もとってあるから。

彼は電話口で嬉しそうに返事をする。ただ幸せな恋人の会話である。

「そういえば、もうすぐ1年ですもんね。……僕、こんなに幸せだったこと、ないです…」

あかいはこの作戦が決定してから夜には1人の時だけ睡眠薬を服用している。

「……はは、れい。その台詞はまだ早いよ」

「そうですね、

泊まった翌朝にでも言うことにします」

可愛いれい。
君は俺をどうするだろうか。
またかつてのように、恨み憎み、殺してやると執着するだろうか。

あかいは今晩も手を回して入手した睡眠薬を口に放り込んだ。

(…それならまだ、救われるかもしれない)

俺にはやらなくてはいけない事がある。

決行の日、
華やかな夜景の綺麗なディナーでは向かいに座るれいの事ばかりを見ていた。

この髪に何度指を差し入れただろうか。

よく動く唇を思うと自分の唇が熱を持つ。

コロリと転がりそうな甘い青い瞳はどの宝石よりも美しい。

一方的な別れを考えながらあかいは心の中で何度も思う。

(どうか、俺を許さないで)

きっと賢い彼は、異変を感じるデータに全てを悟るだろう。
何もなかったなんて、都合の良い未来はきっと2人を待っていない。

「あかい、食欲ない?」

最近顔色悪いとは、思ってたんですよ。

そう自然にあかいの額に手を当てる彼にあかいはそっと目を閉じた。

思えば彼を初めて飲みに誘った時、とてもぎこちなかった2人が。
今ではこうして互いに触れ合うことに躊躇なんてなくて。

皮肉なものだ。
こんな目的がなければ近づかなかった距離がこんなに大事だなんて。

「大丈夫だよ。君といると、疲れなんて吹き飛ぶさ」

やっぱり疲れてるんじゃないか。

そう膨れる仮初の恋人にあかいは目細めた。

「あかい…」

ベッドの中での彼を抱き締める度にあかいは涙が出そうになる。
それは初めての時から変わらない衝動だ。

ハンガーにかけられたらスーツのポケットは常にあかいの意識の中にあった。こんな熱に浮かされた瞬間にも。

「愛してる…」

夢なら醒めてくれるな。

あかいは息を飲み、自分を見つめる彼の顔を見た。

「あかい、愛してる…」

聞かせて欲しい、彼はそうねだるように幸せに涙を浮かべ自分の腕の中であかいにそう告げた。

「…俺も…」

泣き出しそうな夜だった。
幸せと不幸は共存できるのだと自分の選択をこんなにも

呪った事はない。

彼がきっと初めて、家族にも告げたことのないだろう、その言葉をくれた素晴らしい夜に俺は世界で一番残酷な仕打ちを知っている。

「俺も、愛してる、れい…」

世界で1番不幸で幸せな恋人同士だと思う。

後の言葉は飲み込んで、溶け合うように体を繋げ続けた。

女は息をするのも忘れて、
その話が進むにつれてページをめくる手を止めてしまった

そして、手の中に表紙をハラリと見つめて、また男の横顔を見つめた

そこにはその出来事を昨日のように思い出し、その夜のように泣きそうに煙を燻らせる"大人の余裕"を持った男がいた

「……ふるや、れい」

作家の男は潮風にうねった髪をかきあげて女に目線をよこした。

目尻を下げて目を細め、その反応に答えるように指を差す。

「手が止まってしまったようだから。後書きを読んで」

そう言われるがまま、丁寧に後書きのページまで紙を送った。

前の三巻までの後書きが頭にチラつく。先生による

物語の謎かけか、などと言われていた短い文章だ。

[0 謝罪を込めて]

[0 感謝を込めて]

[0 懺悔を込めて]

前の三巻ではそう締められていた。

たどり着いた最終巻の後書きに記者は跳ね上がるように顔を上げた

「あかい、しゅういち…」

[ふるやれいへ
愛を込めて あかいしゅういち]

緑の瞳がゆらりと輝きを見せる。

「俺の本名だ」

ひとつの辿り着いた真実に微笑む男に女は渇いた喉から絞り出した。

「ふるや、れいは彼の名前だったのですね…ふるや、先生」

このシリーズを飾る表紙に添えられるのはふるや れいと言う著者の名前だった。

「チェックアウトで」

フロントに手続きをしに立ち寄る2人は見目麗しい男達だった。

愛想のいい金髪の男と、黒髪のクールな男は毛色は違うがどちらも上等な人間であることは誰もが分かる。

朝のホテルのロビーは
一流ホテルなだけあって利用者も多く沢山の人々が行き交っている。

同じスーツを着ていることなんて誰も気にしない。

あかいはその懐に目をやりそっと、ロビーを静かに見渡した。

自分の選択したことに悔いが残ることはあっても、それは正しい、仕方のないことだったとあかいしゅういちは言える人生であった。

そう言った覚悟と責任を背負える男だったからだ。

結論から言うと、
愛を告げたあかいしゅういちは
目的の為に選択をしたが
行動が出来なかった、という
自分の信念に反する無駄な、
誰もを不幸にするやり方しか出来なかったのだ。

彼のデータに指一本触れない結末を迎えた。

(仲間、は俺を待っているだろうな)

幸せで愛し合った恋人と

ここに立っている事がまやかしだと、彼にも分かるのに。

裏切ることすら、出来なかった。

ただ、あかいに悔いはない。
覚悟も責任も持てない男は初めて悔いのない結末を選んだ。

「…シュウ?」

その声にはじけるように向くと見知ったメンツがホテルに入ってきたところだった。

自分が所属した捜査チーム。

今回の任務の事とは領域が違う。
全くもって話は行っていないはず。
これは、極秘任務だ。

隣を見るとれいも驚いたようにチームのメンバーたちに釘付けになっている。

しかし、メンバーの口から思いもよらぬ言葉を聞かされる。

「あら、貴方なの?今回の

情報の受け渡しの相手は!」

指先から今から向かう結末に血の気が引いていくのが分かった。
もう運命は転がり出している。

「情報?」

「独占入手した、情報が…ここで渡されるからもらってこいって、上からお達しがあって…」

「このメンバーで駆り出されるから、おかしいなと思ったんだが」

そして明らかに戸惑っているのは、隣にいるともにチェックアウトをした他国の捜査官の存在である。

「えと、なんでふるやが…」

「ねぇ、ちょっと待って。入手先ってまさか、」

勘のいいメンバーは何かに思い当たったようで顔色が変わった。

きっと当たらずとも遠からずな真実を見抜いている。

「……それは、残念でしたねぇ…」

先程までピクリともせずに状況の行方を見守っていた、れいが。
少し大きな声で、いつかの面影を連れてそう口を開いた。

1番記憶に残っているのはジョディである。

「あなた、まさか、シュウに…?!」

その言おうとしている可能性に違うと叫び出す前に、

ひとつ上手のバーボンの顔がことを済ませてしまうのだ。

「もう少しだったんですけどね、あなたのお仲間に囲まれてしまっては。僕も流石に訴えられたくないんで、証拠なくやりたかったんですが…」

そう自信に溢れる顔と器用な指先で取り出したのは、彼のスーツのポケットにずっと入っていたはずの

データ媒体だった。

あかいは何から否定しなくてはいけないのか、分からない程に、ふるやれいは巧みに話を続けた。

「fbあいって案外脇が甘いんですね。情が深い彼は、意外とだし抜きやすかった。ジョディさんが1番知っているかな?」

その言葉は的確に欲しい相手の反応を導いた。

「さ、最低…!!シュウに、手を出したのね?!」

男の彼がシュウに?

目の前の妖艶に微笑む、小悪魔のような美しい男を目の当たりにして誰もがあり得る罠だと身を震えさせた。

「ごめんな、あかい。あなたの事それなりに好きだったけど。」

喉は目の前に完璧な彼を前にして焼けそうに黙る。

真実は自分の手の中に明らかにある。

恥ずかしがりながら、不器用に痛みと快楽と共に体を預けてくれたはじめての夜。

キスもしたことがなかったとこっそりと教えてくれた、照れた顔。

彼の予想以上の好意に戸惑ったはじめに、付き合って欲しいと言われ赴いた場所に膝をつきたくなった。

「あかいとなら、来たかった」

いつも1人だったんだけどな。

そう笑う目の前には、2人の目の前で冷たくなっていったスコッチの墓があった。

その時、愕然としたのだ。
彼は本当に、俺を想ってくれている。後悔して死にたくなったし、前に進むしかないのに受け入れるこの気持ちに幸せをかんじた。

そんな彼が。

俺の為に完璧な芝居をしている。
俺を、愛しているから…

「本当に愛してしまったなら、ごめんな。でもこれも駆け引きだから」

そう綺麗に自分に笑って見せる彼は、昨晩愛してると告げてくれた彼と同じ顔をしていた。

それはあかいだけに分かることだった。

「卑怯な…気持ちを利用してかつて一緒に戦った同志を弄ぶなんて…」

「捜査官として目的の為にそこまでするなんて、恥ずかしくないのか?」

あかいの味方をする為に発せられた仲間の言葉は全てあかいのためにあるものだった。

「仕方がないので、コレ。返しておきますね。後味が悪いのでもう

連絡はこれっきりで」

声は遠い。
データを返す?
これは君が地を這うようにして
体を張ってもぎとった収穫だろ?

放心するあかいに、
ふるやは捨て台詞を吐いて颯爽と
立ち去る。

同僚たちはあかいのショックの原因など想像も出来ずただあかいは
ひとつの真実だけを得ることになったのだ。

ふるやれいは、途方もなくあかいしゅういちを愛していた。

「シュウ…大丈夫?」

「こんなシュウ初めてだ….」

それからの記憶はあまりない。
無性に終わってしまった
やるせないことから逃げたくて
薬を飲みたかった。

「シュウ…あなたのおかげで得たデータに奇跡的にお父様についても

情報があったみたいよ…!!」

ジョディの声に返事をする気力すらない日々だった。

「職務復帰はまだ遠いですね…潜入後とこんなことはありませんでしたか?」

医師たちは揃って俺の症状を病いだと言った。

季節がひとつ巡ろうとしていた日。

「遅くなってすまないね」

かつての信頼していた上司があかいを訪ねる。

「なんせ、内部でゴタゴタあって。まあ、休職中の君には煩わしいことかな」

そう言って上司はひとつの提案をした

「ふるやれい捜査官を、追わなくていいのかな」

「…彼は今、」

あかいしゅういちが息を吹き返した瞬間だったと言える。

その名前がいつぶりかに悪意を込められずに口にされた瞬間だった。

「彼は…残念ながら、非常にまずい状況になったようでね…」

あかいは細くなった体を前のめりにした。

「むこうもだいぶ内部で揉めたらしい。要の彼が重荷を背負う

ことになったようだ。潜入中。彼が本来の名前を取り戻せるようになるかは…不明」

これを正気と言わず、どれを言う。
あかいは全身を巡る血管の存在が、分かる程に生を感じている。

「誰がそう仕向けた」

ピリリと肌を震わせる怒気にジェイムズも眉を上げた

「それはもはや問題ではない」

そして預かられていたIDと拳銃が目の前に転がった。

「仕事をすれば、彼に会えるんじゃないか」

医師がやっとあかいの望む書類にサインが出来る日が来たのだ。

それからあかいは
水を得た魚のようにかつてが
ピークだなんて幻想だと思わせる程にまた捜査機関の要となった。

捜査の中で得た全てを使って
ふるやれいという男の
痕跡を血眼になって探す。

あかいが人生を投げうってでも
会いたい彼は優秀すぎた。

10年経ってやっと彼の足跡を

見つけられたようなものだった。

あの日彼の愛をただ受け入れるだけの救われた男にも、これだけ生きればチャンスも訪れる。

「この宗教団体のアシスタント、見覚えないか?」

そこにはかつてバーボンがよく利用していた裏では少し名の知れた情報屋の男が映っていた。

こんな場違いな所に

この男が理由なくいる訳がない。

長年の直感はあかいにそう告げた。

(彼が間違いなく繋がっている…!)

乱れそうになる息を整え、チームに指示を出した。

あの時から体に違和感を覚える時も増えた、がまだ目的のためなら自由に動く。

そんな体を暗闇に紛れ込ませ、男の背後をとった。

「お前のご主人様はどこだ?」

バーボンを盲信していた小柄な男が可哀想な程に飛び上がった。

「ラ、イ」

「懐かしい名前だ。」

男は一瞬怯えを見せたが

自分の役割を思い出したようだ。
冷静さを取り戻そうと手の震えを
必死に繕ってポケットから一枚の
手紙を差し出した。

「あの人からアンタに。ラブレターなんて羨ましい」

俺に手を出したら
それも渡すなと言われてるぜ。

男はジリジリとあかいと距離をとり
薄っぺらい封筒を地面に置いて

あかいの顔を確認した。

「行け」

そう短く告げるとあっという間に奴は消えていった。

情けなくも震える手でそれを拾う。さっきの男を馬鹿に出来ない。

[ふるやれいはもういません。探さないで、許します]

あっけないその短い言葉に
あかいは重みを感じている。

変わらない美しい

紛れもなか彼の筆跡であろう日本語にあかいは指をはわせ、
大人がなく静かに泣いた。

その日があかいが早い引退を決めた日だった。

ふるや先生の物語の主人公は、見目麗しく青い瞳を持った捜査官が事件を解決していくミステリーだ。

彼には4人の仲間がいて
特に幼馴染の友人にはヒントをもらったりととても良い相棒のよう。

知的な女医さんが出てきたり潜入捜査として喫茶店で働いたり探偵のような事もするが彼の魅力か

仮初の姿も沢山の人間に慕われていた。

謎解きとあたたかさが混じり合ったようなら物語で小さな子にも人気のシリーズだ。

(でも、ここに緑の目の人は出てこない…)

「彼が…名前を失くしたというなら、俺はずっとこの名前を大事にしたいんだ…」

かつて聞かせてくれた彼の人生の出来事と一緒に

「追うなと言われてると、待つしかないから。彼がいつか、ここに来るためにだけに来てくれたらいいな、と思ってここに住んでいる」

あの日何も出来なかった男は、
君を愛することだけが出来るようになった。それはとてつもなく幸せなことだけれど、君を思い出して眠る1人の家は切なく甘い。

「別に文才なんて、ないんだ。ただ世界のどこかにいる彼に気付いて欲しいだけなんだ…俺はしつこくも君を待っているから、許すというなら…俺に愛させて欲しいと」

賢い彼はどこか分かっていたのかもしれない。俺の愛が不純でありながらも、真実だったことを。

「ふ、いえ、あかい先生…きっと、

言ってくれますよ!不器用だなって!!」

不思議な力を持つ彼女の笑顔はただあたたかな愛を抱きこの丘で静かな暮らしをする中年の男の心に勇気を与えた。それは期待通りのものだった。

「ありがとう、君に話せて良かったよ」

「そんな…私こそ貴重なお話を…」

気がつくと日が暮れ始めている

1番近くの宿をとったがそれでも街灯のない山道は危ないのできっともうここを出るべきだろう。

「また原稿出来上がり次第、ご連絡いたします」

玄関で背の高い男は少しシワがある目尻を下げて楽しみにしている、と言った。

「君は、古い友人とはまだ親交はある?」

最後にそんな言葉を投げかけ

られ、記者は驚きながらも聞かれた事に答えた。それにどんな意図があるかは分からない。

「幼馴染みたちとは、住んでいる場所は離れますが連絡は取り合ってます」

「そうか、大事にな」

不思議な感覚だが、素直にハイ!と返事をし運転してきた車に乗り込んだ。

今日聞いた話が盛り沢山過ぎて

ふとひとりの空間になると、さまざまな感情が女性を襲った。

居なくなった彼の名前を使って彼の物語を書き続ける男性。

今思えば彼は自身のシリーズを英語版と日本語版、どちらも自身で書き上げて出版しているとても貴重な作家だった。

捜査官。
幼い頃はミステリーが好きで警察官にも憧れた。

いつしかこういった、事件性のない人々の真実が知りたくて記者という歩きにくい道を駆け進むことを選んだのだ。

エンジンをかけるとラジオが時刻の知らせと共にリクエストの曲をかけた。

ふと見ると丁寧にも先生が玄関口でまだその体格のいい体を預けながら出発を見守ってくれている。

想像以上の人物との出会いに記者は胸が熱くなった。

海に溶けていく夕陽のように、
幼い頃優しい気持ちを抱きながらアクセルを踏んで長い丘を下っていく。

段々と小さくなっていく先生をミラーで見つめながら気づくのが遅れた。

(この時間から来客…?)

すれ違う車の運転席に記者は息を飲んだ

かつての仲良しだった、大人みたいな友達の男の子になったように。
全てのピースが頭の中で繋がっていく…

(あ…むろ、さん!!)

あれからどれだけの時間が経ったというのだろうか。
それは先ほど先生が言っていたように、20年だ

震える手でしっかりハンドルを握りなおしながら長い真っ直ぐな

丘を下りつつバックミラーから目が逸らせなくなった。

黒髪の、目つきの悪い、ホラ…!!

随分と優しい眼差しをするので
幼い頃の記憶なんてそんな、
探偵じゃないんだし…

滲む視界をゴシゴシと手で
拭い、今、玄関口で向かい合い

抱き合う男性2人に叫び出したい気持ちになる。

(先生…泣いてるじゃないですか…!!)

項垂れる彼の頭。
あんなに泣き出しそうに笑うのに泣けなかったのは、懺悔し愛する彼がいなかったから

「あかい、さん。後書きは、直接言えますね…」

そう言えば名刺を渡し忘れていたと気づく

大きな道路に出て彼らの姿はミラー越しに見れなくなった。

でも、その先の物語はもう心配することはない。

「原稿書き上げるので、覚悟しておいてください…2人とも…」

次に会った時は緑の瞳の男も物語に入れますように。

記者よしだあゆみはそう願いながら宿に車を走らせたのだった。

🍃end🚘

20↑ 赤安中心 二次創作関係、18歳以上のみフォローOK 時々鍵かけます 地雷ない方どうぞ!☺️ アイコンは@ammy___94 さん ましゅmarshmallow-qa.com/mocks93182772?…

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  2. тѕυкυηє 🍎 ハピエン
  3. 2020/08/22 20:12:31 公開
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