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「続)すれ違い少女漫画なイドアズ...」、@jf_azul_0224 さんからのスレッド

続)すれ違い少女漫画なイドアズ♀

「アズール、少しお顔の色が悪いのでは?」
(……リップの色が薄かっただろうか? 新色、僕には似合わないのかもしれない)
「リップの…………」
「自己管理もできていないのは困りますね。オクタヴィネルの寮長ともあろう御方が」
ジェイドは笑みを浮かべる。

アズールの言葉よりも先にジェイドが口を開いた。
その言葉はアズールの胸に突き刺さったけれど、アズールはその痛みを堪えて笑った。笑う以外の何が出来ただろう。
(深く考えるのを、止めよう。ジェイドは僕の心をかき乱したいだけだ)
傷つけて、かき乱して、自分という人間を刻印したいのだろう。

それは、支配欲なんだろうか?
それとも、独占欲なんだろうか?
(僕に対する独占欲? そんなものがこいつにあるわけがない。……いや、子どもがお気に入りの玩具を奪われることを嫌がるのと一緒か)
そういうものならば納得できる。
アズールはジェイドを見上げた。
見たことのない人のようだった。

「…………アズール?」
アズールは口を開きかけてやめた。
何か言って嫌みを言われて、それに対応する気力はない。
「何でもありません。言いたいことがそれだけならば、僕はもう行きますね」
アズールはわずかに笑みを浮かべた。
嘲るでもなく、煽るでもない。
ただ、透き通るような笑みだった。

「…………アズール?」
不意にジェイドは不安にかられた。
その微笑みが美しかったことに見惚れたからではない。
何かがおかしい、と脳内で警鐘を鳴らしていた。
(全部、止めてしまおうか…………)
別に寮長を止めたっていい。
いず来る別れだ。ここで自分から別れても同じことだろう。

他の寮に転寮したっていいのだ。
(辞任した僕が居座っては新寮長の邪魔になるでしょうからね)
とりあえず、サバナクローとスカラビアは寮の環境から無理だとしても、ハーツラビュル、ポムフィオーレ、イグニハイド、ディアソムニアが残る。
(……ハーツラビュルの寮服は僕には似合いません)

あれはリドルのように可愛い少女向けだ。
アズールが着たらただのコスプレになってしまう。
(現実的に考えるのならポムフィオーレかイグニハイドなんですよね)
性格的なことを考えたらイグニハイド一択だ。
オクタヴィネルとは違った意味での個人主義が幅をきかせていて、気質的に過ごしやすい。

(イデアさんに相談してみようか……)
今のアズールにとって、部活はほとんど唯一といっていい息抜きの場になりつつある。
数少ない女生徒というだけでカレッジ内では常に気を張っていなければいけないし、誰が聞いて居るかわからない教室ではおいそれと本音を明かすことも出来ない。

寮では寮内の綱紀を引き締め、寮長として正しくあらねばならず、モストロ・ラウンジでは支配人として気を配り滞りなく店を運営しなければならない。
頼りの二人は、最近、イライラしてばかりのフロイドはアズールを避け気味で、ジェイドはジェイドで嫌みが増え、反応しないと嫌みを上乗せしてくる。

そのくせ夜になれば二人は纏わり付いてきて、三回に一回はアズールは丸め込まれるし、週末はアズールの私室にほとんど居座っている。
だから、ここ最近のアズールは気が安まる暇が無い。
ボードゲーム部の先輩であるイデア・シュラウドは何だかんだいってもアズールの事を気に掛けてくれる良い先輩だ。

性格的なこともあって、アズールも相談しやすい。
イデアがスゴイのは、アズールに対してまったく劣情を抱いていないというところだ。
双子と関係を持つようになってから、アズールには男の欲望が透け見えるようになった。
そういうものに対して過敏になったともいえる。
(…………気持ちが悪い)

内臓があるべきところにないような……質の良くない変身薬を飲んだときのような気持ちの悪さに、アズールはうずくまった。
「……アズール?」
リドルの声がした。
「アズール、君、真っ青だよ? 保健室に…………トレイっ……」
(……大丈夫です、リドルさん)
心の声は、音になることがなかった。

◆◆◆

闇が身体を覆っていた。
闇、暗闇────いや、これは黒い水か…………。
それはひどく重苦しく身体に纏わり付いた。
まるで搔いても搔いても抜け出ることのできない砂の中に取り込まれてしまったかのように。
(…………ああ、疲れた…………)
自分の身体が思い通りにならない。

少しだけ休もうと思って、砂を搔く腕を止めた。
無理矢理そこから抜け出ようとしなければ、そこは存外心地が良い場所だった。
ほのかなぬくもりが凍えている身体をじんわりと温めてくれた。
(……ああ、僕は寒かったのか)
動くのを止めてしまうと、何だかとても眠かった。
(このまま眠りたい……)

でも、アズールにはそれはできなかった。
授業をさぼるわけにはいかないし、今日のラウンジの〆もある。
(それから、イソギンチャクのためのテストの対策ノートも作らなければならないし…………あとは、仕入れの伝票も自分でチェックしよう……)
ジェイドに嫌みを言われるよりも先に自分でやろう。

メニューの開発もフロイドの機嫌を取って何とかやってもらうより、自分で頑張ろう。
できるだけのことを自分でやるようにして、あの二人に頼らないようにしよう。
次から次へとやらなければならないことが浮かんでくる。
(僕が全部一人でできるようになったら、元の幼馴染みに戻れるだろうか……)

戻りたい、と思った。
海に居た頃の────男も女もなく、ただの三人だった頃に。
そうは思うのに、アズールは海に帰りたいとは思わないし時間を戻したいとも思わない。
たぶん、どこかで自分たちは間違ったのだ。
だから、やり直したかった。
トライ&エラー────それがアズールの行動の基本だ。

間違ったから、再度、挑戦する。成功するまで何度でも。
…………そう。
アズールはもう一度やり直したかった。
彼らに頼らずに自分が一人で立つことができれば…………寮長として、支配人として一人でできるようになれば、きっと────。
(……僕の身体を……交尾を対価にしなくてもよくなる)

アズールは知ったのだ。
陸上であっても、幼馴染みは身体の関係なんて持たないし、べったりとくっついたりしないし、同じ寝台で眠ることもない。
(性的欲求が兆したからって僕がそれを処理してあげたりするのは普通じゃない……)
悲しいことに、アズールは本当に無知な子どもだった。

『仲の良い幼馴染みだからおかしくない』と言われれば簡単に信じたし、二人には甘かった。
交尾に至らない数々の行為も、おかしいとは思いつつも二人におかしくないと言われれば信じた。
(二人は、どんなつもりで僕にあんなことをさせたんだろう…………)
それは、純粋な疑問だった。

別に今更被害者面をしたりはしない。
無知だった自分が悪いのだ。
だから、二人に搾取された────ただそれだけだ。
(ただ、僕が二人のことが特別だっただけだ……)
今はちゃんと何をしているのか、何をされているのかを知っている。
アズールの身体は、あの二人を繋ぎ止める対価だ。

(僕の身体にそれだけの価値があるのだと、あの二人がそう思っている間だけの期間限定のものですけど)
自分の身体にその価値があることを誇るべきだ。
………なのに、アズールはそのことを思うといつも泣きたくなる。
どんなに優しくされても、どんなに強く求められても、それは対価でしかないから。

(僕は、あの二人にとっても自分が特別だなんてどうして思い上がってしまったんだろう…………)
いつからあの二人を警戒しなくなってしまったんだろう。
最初は絶対に騙されてるって思っていたはずなのに。
(ああ、もうぐちゃぐちゃだ…………)
気持ちの整理がつかない。

こんなことでは、またジェイドに嫌みを言われてしまう。
(涙だけは見せちゃだめだ……)
女を武器にすることをフロイドは嫌う。
それに、二人に泣き虫だと揶揄われるのもご免だ。
忘れてしまえればいいのに、と思う一方で無駄に優秀なアズールの頭脳は決して忘れることを許さない。

(気持ちの整理が済むまでもう少しだけ…………)
ジェイドに嫌みを言われても、フロイドにわがままを言われても笑っていられるようになるまで、もう少しだけこのまま休んでいよう、とぼんやりと考えた。
どうせ朝がくれば……あるいは仕事の時間になれば、嫌でも目覚めなければならない。

目覚めたらきっといろいろ山積みにされているだろうけれど、それでも今だけは自分に休息を許してやりたくて、アズールはそっと意識を閉ざした。

(続)少女漫画なすれ違いイドアズ♀ 終
 ※ここまでは共通√です

文字書き(青鯨ひいな)/成人済(20↑)/読むのは何でもな雑食/主食はイドアズ/イデアズも好き/夢もにょたも好きな雑食
ネタ放流アカウントです。いろいろぶん投げていますのでご注意下さい。
マシュマロ marshmallow-qa.com/jf_azul_0224

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  3. 2020/10/07 10:50:18 公開
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