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「『狐の嫁入り』 ①奇妙な雨だった...」、@schoolwars1 さんからのスレッド

『狐の嫁入り』

①奇妙な雨だった。陽が差しているのに降っている。神社の軒下でやり過ごそうと思った。
軒下に入ってしばらくした。チッと舌打ちしそうになった。荷車に収穫したサツマイモを山盛りに山道をやって来る女が見えた。車を押しているのはオシゲと呼ばれる女だった。

②オシゲは60歳くらいの女だった。近くの開墾地にイモ畑をこしらえて小屋を建てて住んでいた。誰も前身を知らない。挨拶しない、寄り合いにも出てこない、あんなものはろくなものではない。とオシゲの評判は村人の間で最低だった。

オシゲはずぶ濡れだった。思わず軒下から出て傘をさしかけた。

③「要らん。狐の嫁入りじゃ」
とじゃけんに言われた。ムッとなった。それだけだった。

希望している大学の入学金が値上がりした。これでは合格しても入れない。母は借金にかけずり回った。しかし、差額は埋められなかった。
「一年働くわ。なんとかなるやろ」
とその年の進学はあきらめた。

④オシゲがやってきたのは冬が終わろうとしている夜だった。母と何か話をしていた。オシゲが帰ると母は、
「嫌われるだけあるわ」と言った。そして、
「お前、オシゲと何があったんや。オシゲめ、大学へやる金がたりんらしいな。年1割やて。えげつないわ。大学へ願書出せ」
「借りたんか」

⑤「ああ、試験期日が来たら東京へ発て。オシゲが、帰り際、奇妙なことをつぶやいた。狐の嫁入りじゃ、て」
アッ、と思った。追って出ようと思った。しかし、昼間こそ通れるが夜は神社の前は気味が悪い。それを思い出してやめた。

⑥オシゲが死んだのは大学三年時だった。帰省するまで知らなかった。
「満州で家族をみんな亡くした。主人の実家に引き上げても誰も知った人は居ない。己の実家は冷たい。で、ここに流れ着いた。やりなおすには年を取り過ぎたって。畑で取たイモや野菜を売って小銭を貯めとった」

⑦「月に一度、金を返しに行って話すだけやった。お前が、どんなになるか楽しみや、と言うてた」
オシゲの墓はない。区画整理と道路建設で様相を変えた。オシゲが住んでいた辺りをバスは噴煙を吐いて駆けていく。そんなの見たくもない。もう一度見たいのは原野を駆けていく通り雨「狐の嫁入り」だ。

作家。「くすぶりの龍」でエンタテイメント賞受賞。ドラマ「スクール☆ウオーズ」の原作者。

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  2. 馬場信浩
  3. 2020/11/21 22:13:17 公開
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