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「世の中に全然役に立たない、趣味...」、@ShinShinohara さんからのスレッド

世の中に全然役に立たない、趣味としか思えない研究が、とてつもなく人類に貢献する技術体系を育てることになった事例を紹介。
それは、ミミイカという光るイカの研究。これがやがて、アレルギーや心の病にも深く関係する、腸内細菌などの研究にも波及していった。

ミミイカは手のひらに乗るような、まん丸でかわいいイカ。ダイバーに人気で知られるが、取り立てて役に立たないイカ。そのイカがなぜ光るのか、という、これまた趣味としか思えない研究を始めた人がいた。
研究の結果、イカが光っているのではなく、共生するバクテリアが光ることを突き止めた。

ところがこのバクテリア、数が少ないと光らない。数が増える(密度が高くなる)と光る。どうやってこのバクテリアは仲間がいることを感じ取ってるのだろう?と不思議に思った研究者は、さらに調べたところ、クオルモンという、ホルモンとかフェロモンのようなものを出してることを発見。

仲間が少ないと、細胞の外に分泌したクオルモンの濃度も薄い。仲間が増え、それにあわせてクオルモンの濃度が上昇すると、バクテリアは仲間が増えたことを感じ取り、光る遺伝子を動かす、という仕組みだと分かった。
話がここで終わったら、「イカはそうなのね、終わり」の話。ところが。

そのバクテリアが出すクオルモンは、病原菌も分泌していることが分かった。実は病原性バクテリアは、仲間が少ない間は毒素を出さない。クオルモンの濃度が低い間は仲間が少ないことを察知し、ヘタなことはしないよう、大人しくしてる。しかし増殖を重ね、クオルモンの濃度が高まると。

仲間が十分増えたと分かり、毒素をドバッと作るようになる。仲間の数が十分だから、人間の防御システムに負けず、大量の毒素で打ち負かす。クオルモンは、病原性バクテリアが「大人しい菌」から「病原菌」に変身するためのカギになっていた。

よくよく研究を進めると、病原菌どころか、ほぼあらゆるバクテリアが、何らかのクオルモンを出し、情報のやりとりをしていることが分かってきた。クオルモンでバクテリアは対話し、バイオフィルムという巨大構造を形成し、あたかも多細胞生物のように活動するという姿が見えてきた。

いわゆる善玉菌も、クオルモンを介して様々なバクテリアとコミュニケーションを取っていることが明らかとなった。たとえば乳酸菌はナイシンという抗菌物質を分泌するのだけど、これはクオルモンとして情報伝達物質であることも分かってきた。

しかも、クオルモンを使った情報伝達システムは、バクテリア同士だねではなかった。植物はmimicという、クオルモンに似た物質を分泌してバクテリアの活動を制御していた。また、病原性大腸菌O157は、人間のホルモンであるアドレナリンをクオルモンのように感じ取る仕組みを持っていた。

こうして、バクテリアのコミュニケーションの道具であるクオルモンは、腸内細菌などの微生物群集が、比較的秩序だった活動ができるのを支える重要な情報伝達物質であり、人間や植物などの宿主との間でも情報をやりとりする重要な役割を果たしていることが分かった。

いまや、食物アレルギーやアトピーなどのアレルギー症状ばかりでなく、うつ病や自閉症などとも、腸内細菌は深く関わることが明らかになりつつある。
糞便移植という、一種乱暴で原始的と批判されても不思議ではない治療法が支持を集めているのは、クオルモンの研究で微生物を群集として捉えるから。

腸内細菌の研究は、いわばミミイカの光るバクテリアの研究に支えられている。もし「何でこのイカは光るんだろう?」という趣味みたいな研究が行われていなければ、クオルモンの発見はもっと時間がかかったかもしれない。そうなれば、腸内細菌の理解も進まなかったかもしれない。

科学は、「何でだろう?」という趣味みたいなものを原動力で進めた方が、結果的に学問の体系を根底から問い直すような新たな発見につながることが早くなる。ミミイカの研究がクオルモンの存在を明らかにしなければ、腸内細菌の研究と理解はずいぶん違ったものになり、見当違いも多く起きただろう。

なぜか。病原菌みたいな、気になるバクテリアの研究をしていると、ついつい毒素みたいな目立つものばかり研究してしまう。善玉菌みたいな研究をしていると、ついつい抗生物質みたいなすぐ役に立つ物質に目を奪われてしまう。

しかもクオルモンは、25メートルプールに涙一滴みたいな超低濃度で働く物質。病原菌や善玉菌の研究だけしていたら、もっと目立つ物質に目を奪われて、クオルモンには気づきにくい。
ミミイカの光るバクテリアという、役に立たない研究だったから、クオルモンに気づけた。

いったんクオルモンに気づけば、他のバクテリアにも同じ仕組みがあるのだろうか?まさか病原菌にね?と思って調べたら、あった!しかもドンピシャで、毒素を作る信号として働いてる!善玉菌は抗生物質そのものがクオルモンだった!発見の連続。

いまや微生物の研究者は、バクテリアのことを単純な「単細胞」生物だと考えていない。様々な微生物や、我々動物や植物など、多彩な生物と情報をやりとりしてる、複雑な仕組みを備えた生き物なのだと理解している。

ミミイカの光るバクテリアの研究という、趣味としか思えない研究がこれほどのすそ野の広い研究を生み出し、様々な新しいコンセプトの治療法まで生み出している。
研究は、趣味みたいなものも大切にした方が、結果的にとんでもない面白いものを生み出す力になる。

まとめました。

役に立たない趣味の研究がものすごく役に立つ一大技術体系を生む事例

役に立たない趣味の研究がものすごく役に立つ一大技術体系を生む事例

かわいいミミイカはなぜ光るのだろう?どう考えても趣味としか思えない、何の役にも立たない研究が、腸内細菌をはじめとする一大技術体系を育むことになった経緯を紹介。

togetter.com

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  2. shinshinohara
  3. 2020/11/24 21:47:50 公開
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