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「日米の同人誌事情を比較するのは...」、@dankanemitsu さんからのスレッド

日米の同人誌事情を比較するのは簡単ではありません。それこそ30年以上掛けて比較・検討・検証をしてきたんですが、まず定義の問題があります。「同人誌とはなにか」とまじめに日本で考える人も少ないのではないでしょうか。結構これって重要な課題です。日本国内でも定義にブレがあったりします。

同人誌は自費出版であると片付けるのは簡単ですが、実は商業販路を通して結構な数の自費出版書籍が流れていることがあります。また現在書籍販売の大手となっているアマゾンではそれこそデータを預けて注文にあわせて書籍が販売されるという究極の「個人主体・自費出版」が展開しているといえます。

個人的には日本の同人誌を考える時に注力すべきは「同人誌というメディアに対して人は何を期待しているのか」に基づいてその役割を考えることだと思います。具体的には「手軽に自らの創作物を同好の志と共有できる」「商業誌よりも自由度が大きい」「職業ではなく趣味の表現手段として割り切れる」。

今並べたこの三つの条件が揃っているのが日本の同人界の大きな特質と言えるでしょう。もっと他にも色々ありますが、商業出版ではなく同人出版に何を求められているのかを考えると目立つ三点です。

「手軽に自らの創作物を同好の志と共有できる」「商業誌よりも自由度が大きい」「職業ではなく趣味の表現手段として割り切れる」の三点が日本の同人誌の特徴と考えると絶対に切り離せないのが同人誌展示即売会の存在です。即売会がなくして最初の二つは成立たず、三つ目もかなり微妙です。

色々な方々が指摘していますが、アメリカにも「同人誌っぽいメディア」は色々あります。コミックであればインディ系出版社や自費出版コミック。サブカル全体で言えばZineという日本で言えば「ミニコミ誌」に近い(主に簡易)出版物、大学や地域の著作者が集まり研究会(workshops)の発行物、他にも

同好の人間が身内でコンテンツを共有するアマチュア出版会(APA)、同好会が会員から募集した原稿を集めて会員に郵送する定期刊行物など、インターネットを経由したやり取りが生まれる前からもかなり色々な「同人っぽい」出版文化はあります。マニアが趣味で楽しむマイナーな自費出版の世界です。

しかしながら今並べたアメリカでのマイナー出版と日本の同人界と決定的に異なるが「展示即売会の存在の有無」です。挙げた例で日本の同人誌展示即売会にもっと近いのはアメコミイベントで取引されているインディ系や独立系コミックですが、アメコミイベントは通常、大手商業出版社も同席しています。

そもそもアメコミは日本のように「商業マンガ・同人マンガ」という線引きはなく、大手出版社が展開する超メジャータイトルから中小のマイナー作品、そして個人経営の個人レーベルまでのグラデーションとなっているんです。個人出版物も商業出版配給ルートに乗せられるのがアメコミの特徴の一つです。

配給ルートが広範囲である一方で、商業誌と一定の独自性があるのがZine文化です。Factsheet FiveなどのZineを特集する雑誌やサブカル系カタログに自らのZineを送ったり詳細を掲載してもらうことで通信販売することができたのです。まさしくこれは紙面で展開していた同人誌即売会と言えるでしょう。

日本のアニメ雑誌などでもこのような同人誌紹介コーナーがかつてありました。昭和生まれの方々の間では良く覚えている方々も多いでしょう。

独自の市場とメディアを構築していたZineの世界ですが、先に並べた日本の同人誌の特徴である「手軽に自らの創作物を同好の志と共有できる」に該当するかが微妙です。たしかに共有できるんですが、通信販売を「手軽」とは言い難いのです。定額小為替などの面倒を覚えている人は私だけではないはずです。

日本アニメコンベンションでもアーティスト・アレーという「個人が出展して自らの販売物を販売する」コーナーがあります。かつてそこで色々な「アメリカ産同人誌」が販売されていました。

日本アニメコンベンションでもアーティスト・アレーという「個人が出展して自らの販売物を販売する」コー...

残念ながら90年代末~2000年代前半で同人誌作りが下火となり、絵師さんがカラーピンナップを販売するのが主力となってしまいます。最近多少盛り返していますが、同人誌即売会に特化したイベントが未だにアメリカでは少ないために紙媒体の同人誌が手軽に展開できる状況にはなっていません。

忘れてならないことは日本は最初から「同人誌先進国」というわけではないのです。1975年にコミックマーケットが生まれた当時、アメリカのSF大会やアメコミイベントの方がたくさんの色々なマイナーでマニアックな出版物で溢れていたと思います。日本はファンジン後進国だったといえるかもしれません。

しかし即売会、印刷会社、販売網、そして個人が出版するマニアックな趣味な世界を支える読者層とこの文化に理解を示してくださった方々が今日の同人界を育てあげたのです。様々なインフラが充実したことによって世界に類を見ないような個人出版と創作の独自領域が形成された事にいつも感謝しています。

しかし日本の自由で満ち満ちた同人界を可能にしてくれる良好な環境も万全のインフラも頼もしい読者も何かの拍子で崩れ去る可能性があります。同人界は一つの生態系です。一部が崩れると全体が変質し、大事な世界が失われてしまう可能性があることを決して忘れないで下さい。

Dan Kanemitsu-Translator, etc. Likes models and doujinshi. 英和和英翻訳&通訳・文化考証・演技指導、近頃創作も。趣味は模型や同人誌。pixiv.me/dankanemitsu log twilog.org/dankanemitsu

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  3. 2021/01/16 22:23:25 公開
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