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「刀剣男士という生き物は、生真面...」、@97hatopoppo さんからのスレッド

刀剣男士という生き物は、生真面目で、不器用で、そしてとても愛おしい。

その本丸には、子どもが居た。短刀のことでは無い。審神者の子どもだ。というか家族がそこに住んでいた。審神者、伴侶、そして子どもの三人家族である。
なかなかに特殊な状況であったが、彼らは割と順応していた。

「ただいまぁ。」
子どもは小学六年生である。来る中学進学に向けて少しずつ学校で卒業アルバムの作成をしたり、制服の採をしたりと案外忙しい。
「やあ、おかえり若くん。」
若くん、とは子どもの呼び名だ。そう呼んだのは燭台切で、その手には今日のおやつのマドレーヌがあった。

若くん、と呼ばせたのは子どもである。あれは幼稚園の頃だった。最初は皆、若君(わかぎみ)と子どもの事を呼んでいたのだが、当時の子どもにとってはなんじゃそらな呼称だった。

わかぎみ、いや!くんってつけて!

幼い癇癪など笑い飛ばせば良いものを、彼らは真剣に合わせてくれたのだ。

しかし、十二歳にもなれば、くん付けは少し嫌になる。大人の真似をし始める年頃になったのだ。子どもも例に漏れず、苗字の呼び捨てに憧れていた。
だが、ここは本丸だ。例え姓であれ名を教えてはいけない。それくらいは子どももちゃんと理解していた。

刀剣男士との生活は、意外と制約が多いのだ。

燭台切なんかは柔軟な方で、子どもによく合わせてくれる。他にも加州や大和守、堀川に歌仙なんかもそうだ。
一方で蜻蛉切や長谷部はそうはいかない。彼らには彼らの在り方があり、そこに主の家族を気安く呼ぶ、というものは存在しないのだ。
結果、子どもは限られた刀剣男士としか交流をしていない。

他にも、例えば三条や御神刀、天下五剣のような霊力の高い刀剣男士も、成長期で魂が未熟な子どもに触れるとどんな影響があるかは分からないという理由で、遠ざけている。
無論、出陣後の鉢合わせなどは論外だ。子どもに教えられるものには適齢というものがある。
これらは全て、子どもの為の制約だ。

とはいえ、刀剣男士達も決して審神者の家族が嫌いなわけでも、差別しているわけでもない。
子どもが運動会の日は御神刀達から怪我をしないようにとお守りを授かるし、遠目からだが三条達も頑張れよと声をかけてくれる。
長谷部や日本号は早く走る練習を手伝ってくれたものだ。
皆、優しいのである。

つまるところ、子どもは愛に包まれていた。だから学校から帰る時間に合わせておやつを作ってくれているし、交流のある刀剣男士が二振りは残るように出陣と遠征は組まれていた。
寂しさなど感じた事はなく、様々な制約も面倒には思わないほどには、子どもは本丸での生活に慣れていた。

さて、ある日小学校の卒業練習を終えて帰ってきた子どもは、珍しく両親が門の前まで迎えに出ている事に気付いた。
時期に中学へ進学するとはいえ、まだまだ小学生だ。親が居れば嬉しくて走り出す。全身で両親に飛び込む子どもを抱き締めるように受け止めた彼らは、子どもの頭を撫でながら言った。

「将来、何になりたい?」
唐突な問いに、子どもはキョトンとした。だが親との交流の方が嬉しかったため、子どもは無邪気にえっとね、と話し出した。
サッカー選手、飛行機に乗る人、学校の先生も良いし、パソコン作る人とか。あとさにわもなってみたい。
それは全て思い付きであった。

両親は子どもを抱きしめた。子どもも嬉しくて抱きついた。抱きついて、あれ、と思った。
父からいつも香る、優しい香水の匂いがしない。
母からいつも香る、穏やかな石鹸の匂いがしない。
こんなんだったっけ。そう思って顔を上げた子どもに、両親は言った。
「担当のおじさんのとこにいっておいて」

「ワガママ言っちゃダメよ?」
「お利口にな。迎えに行くから、宿題もちゃんとするんだぞ。」
父の手に頭を撫でられ、母に両頬を包まれ、子どもは頷いた。

なんとなく、どうしようもないのだと分かった。

「もっかい、ぎゅってして。」
久しく言ってなかった甘えた言葉を、両親は全力で叶えた。

それが最期だった。子どもは言われるがまま、いつも優しく面倒を見てくれる担当の元へ行き、親の帰りを待った。
いや、待つという指示を遂行した。もう迎えには来ないと、どこかで分かっていた。

あの時、両親から臭っていたのは、間違いなく血の匂いだったから。

担当は子どもを抱きしめて泣いた。

本丸襲撃。その言葉をちゃんと教えて貰ったのは、両親の四十九日が終わった後だった。この時代だが、それでも戦争孤児という名はつくらしい。
処理に追われてどんどん窶れていく担当を、子どもは子どもなりに心配した。家である本丸を失った子どもは、政府にある静養施設を間借りする形になっていた。

住んでいた本丸は、もう人の住める状態ではないらしい。鎮圧部隊が三部隊派遣され、その後、お祓いを一週間行って更地にしたと聞いた。正直子どもにはあまり実感がなかった。
だが、両親の骸に会えなかったのは子どもの心をいたく締め付けた。
子どもに見せられる状態ではなかったらしい。

そして、生き残った刀剣男士が一振居た。
獅子王。あの本丸の初太刀だったが、子どもとはあまり交流をしない刀剣男士だった。
「……よろしくな。」
獅子王は、少しだけ寂しそうな笑顔で子どもの頭を撫でた。

おれのこと、わかってよんで

どさくさに紛れて、子どもは挨拶代わりにそんな要求をした。

「若、朝だぞ。」
獅子王は、何故子どもと交流しなかったのかと思うほどに気さくで面倒見が良かった。交流はなくとも話は聞いていたようで、時間割はしたのか、忘れ物はないかと声掛けはバッチリである。
子どもも、慣れない施設での生活には少し戸惑ったが、見慣れた担当が上手くサポートしてくれた。

卒業式の日は、担当が有給をとって来てくれた。審神者の仕事は誰にも言えない為、学校で子どもが孤児になった事を知る者は一人も居ない。教師すら、知らなかった。

卒業式の後はどこかでご飯を食べて帰ろうか。

そんな小さな約束すら流れて、担当が買ってきてくれたケーキを獅子王と分けて食べた。

入学式の日は一人だった。担当は有給をとると言ってくれたが、卒業式の後本当に忙しそうにしているのを知っていたから断った。
「若、一人で大丈夫か?」
獅子王は心配していたが、子どもは頷いた。正直に言えば、家族が居ないというスペックがちょっと大人っぽくて不謹慎にも浮ついていた。

しかし、次第に子どもの心は悲鳴を上げ始めた。学校には親が居ない事を説明出来ないから、親のサインが必要な書類が容赦なく届く。いつも担当が代わりにこなしてくれたが、授業参観には来れなかったし家庭訪問は一身上の都合で書面でのやり取りになった。
他者と違う事に浮かれられたのは一瞬だった。

子どもはどんどん寡黙になったが、非行には走らなかった。本当は好き勝手にやってみたかったが、そう思う度に思い出すのだ。

若くん、ドーナツを作ってみたよ!
おや、今日は若くんもお買い物かい?
若くーん!あそぼ?
若くん、馬の世話しましょうか!

親よりも、長く接した彼らを。

いつも優しかった彼らを、子どもは裏切れなかった。戦う姿なんて見た事はなかったけど、一度だけ出陣の為に門の前に集まるのを見た事がある。
皆、時代劇のように刀を持って、堂々と立っていた。
気の弱そうな五虎退も、笑わない骨喰も、卑屈な山姥切すら。
彼らの姿が、強く記憶に残っていた。

「若、おかえり。」
「ただいま。」
獅子王は料理が得意ではないから、帰りの時間に合わせたおやつはもう出てこない。かわりに、どこからか調達したらしい出来合いのおやつが出るようになった。煎餅だったり、グミだったり、スナックだったり色々だ。
「ほい、お茶。」
でもジュースは出なかった。

「今日はなんかあったか?」
「体育祭の種目決めをしたよ。」
「そっか。」
獅子王は三日に一度くらい、何をしたのか聞いてきた。なんだそのスパンは、と思いつつも子どもは律儀に返していた。
「獅子王は何したの?」
「特には。」
逆に獅子王に聞けば、彼はいつもこう返した。会話はそれくらいだ。

獅子王は気安く、面倒見は良いが、楽しくはない。それが子どもの獅子王に対する評価だ。しかし親でもなければ親族でもない為、なかなかどうして思春期になっても上手く踏み込めなかった。なんなら担当相手の方が、まだ気安かったかもしれない。
そんなある日、子どもは熱を出した。

元々頑丈だった為滅多に、というか記憶にある分なら一度も体調不良になったことがない子どもは、発熱した身体にちょっと浮かれた。
だが獅子王は違った。普段の落ち着いた雰囲気が嘘のように慌てて、慣れない手つきで部屋にある電話を操作した。
「も、もしもし!?若が、若が熱出した!!」

泣きそうな声を、初めて聞いた。駆け付けた担当が熱を図り、微熱だと安堵しても獅子王は全く落ち着かなかった。
「若、若、俺はどうすればいい?」
正直、寝たいのに声をかけられてもうるさいだけだ。でも必死になっている獅子王にそれを言っても良いのか分からなくて、とりあえず黙っていた。

獅子王はずっと子どもの傍に座って、熱でうとうとする子どもに話しかけてきた。まあ煩かったが、子どもは止めるのも億劫だと好きにさせていた。
「若、ごめん、俺が残っちまって、ごめんな。燭台切の方が、きっと若の力になれたのに……!」
しかし、反応しなかったのは獅子王を追い詰めたらしい。

気付けば獅子王はポロポロと涙を零していた。子どもは一度だって獅子王と燭台切を比べたことはない。だが獅子王は、まるで壊れたかのようにごめんと言い続けた。
「……そんな事ないよ。」
「若、ごめん、俺、」
「いいから、いいからさ、寝させて……。」
一方で子どもは割と眠気の限界だった。

結局翌日も学校を休み、子どもの熱は下がった。下痢も嘔吐もしなかった為、医者の見立てでは疲れと季節の変わり目による軽い風邪だろう、と診断がついたらしい。
落ち着いた所で、子どもは部屋の隅を見た。そこには、獅子王がかなり落ち込んだ様子で座り込んでいた。

一度、時を戻してあの襲撃が起きた日の獅子王の話をしよう。
その日、獅子王は非番だった。洗濯当番を手伝っていた彼は、ふと招かへざる客の気配を察して走った。
時は昼過ぎ、子どもが帰ってくる一時間ほど前だろうか。運悪く短刀の多くが遠征に出ていたせいで、屋敷が制圧されるのはすぐだった。

獅子王は戦うより先に審神者と伴侶を庭に出し、門の前に連れ出す事を優先した。子どもが帰ってきてはまずいからだ。屋内から出す際には流石に無傷でとはいかず、二人の体に相応の傷を付けてしまった。
二人を門の外へ出し、獅子王はそこを守る為に刀を奮った。戦況は全く読めなかった。

暫くして、二人が帰って来たことに獅子王は驚いた。良くて審神者だけが戻ると思っていたのだ。しかし、その顔を見て、獅子王は彼らの覚悟を悟った。

子を置いて死ぬ事を決め、涙すら拭わずに戻ってきたのだ、彼らは。

将としては天晴れ、親としては最低の判断であった。だからこそ守りたかった。

だがそう上手くはいかなかった。先に伴侶が倒れた。審神者を庇ったのだ。僅かでも審神者が生き残る可能性を増やす為にこの伴侶は恐怖の中戻ってきたのだと、そこで初めて獅子王は知った。
それから、審神者が討たれた。その瞬間、審神者は最期の力で獅子王の体を門の外に突き飛ばした。

あの子を守って
言葉にはならなかった想いを、獅子王は間違いなく聞き届けた。拒否する時間も、余裕も、理由もなかった。
以来、獅子王は子どもの傍に居続けた。どうして良いかなんて分からないことばかりで、何度も子どもの居ない昼間に担当に相談をした。
プライドは、あの本丸に捨ててきた。

だのに、獅子王は子どもを我慢させる事しか出来なかった。燭台切がいつも手作りの美味しいおやつを作っていた事を知っていたが、獅子王にはレシピを読んでも作れそうな気がしなかった。
歌仙や堀川が毎日子どもの話を聞いていたのは知っていたが、自分はどこまで踏み込んで良いか分からなかった。

挙句、ついには熱を出させてしまった。疲れ、と医者は言ったが、獅子王の存在や行動が大なり小なりストレスを与えている事くらい獅子王も気付いている。
ここに来て、獅子王はずっと役立たずであった。それが申し訳なくて、情けなくて、仕方がなかった。

獅子王の懺悔のような言葉を、子どもは聞いていた。聞いた上で、なんだ、としか思わなかった。
獅子王は後悔だらけだったようだが、子どもは割と獅子王に助けられている。
忘れ物はないかと声を掛けられるだけで、自分は一人ではないと安心した。
卒業式の日も、ケーキを分け合う相手が居た。

一つ一つは大した事ないが、子どもは大した事をされたいわけではない。寝る時に隣を見たら人が居る。それだけで、どれほど安心出来た事か。
いってらっしゃいとおかえりが、どれほど勇気をくれた事か。
言ったことはなかったが、獅子王は確かに子どもの支えになっていたし、守ってくれていた。

しかし、子どもは絶賛思春期である。面と向かって心に響くようなクサイ言葉を言えるほど成熟していなかった。
いつの間にか一人称も俺になっていたし、もう体躯の大きな刀剣男士におんぶや肩車を強請る歳ではい。
だから、この時も「そんなことは無い、凄く助かっている」と言うだけで精一杯だった。

その後も、子どもと獅子王は寄り添って生きた。やっぱり子どもは非行にも走れぬまま大人しく成長していったし、獅子王は出来合いのおやつをいつまでも出した。でも、少しずつ会話は増えた。
そして、ついに子どもは二十歳になった。
とはいえ獅子王は元服時代の刀剣男士だ、二十歳にピンときていない。

だから、子どもはサプライズをする事にした。高校受験に合わせて後見人に名前を預けてくれた担当にも秘密にして、他の政府職員を巻き込んだサプライズだ。

子どもは、子どもを卒業し、審神者として生きる事を決めた。
高校卒業後、アルバイトとして政府内で雑務をこなしながら資格を得たのだ。

二十歳の祝いをしたいから、会議室に来て欲しい。
そう言えば、獅子王と担当は喜んで頷いた。後見人になると決めた時から本丸の担当職員を一旦離れた担当は、現在事務方として働いている。以前より休みも取りやすい部署だ。
二十歳の祝いだから正装できてね、と言ったら、笑われた。

時間になり、多くの職員が祝ってくれた。担当が浮かないように、皆正装してくれている。美味しい料理を食べて、しかしお酒はまだ飲まないと言ってジュースで乾杯した。獅子王も、楽しそうに笑っていた。

さて、時は来た。
司会進行を頼んだ職員が、二十歳の意気込みをとマイクを振った。

子どもはもう、子どもじゃない。自分が生きる為に、担当だけでなく多くの職員が見えない場所で動いてくれた事を、もう知っている。
まずは、その感謝をした。金も、時間も、しっかりかけてもらった。例えそれが親の残した金だとしても、それを間違いなく自分に使ってくれたのだ。感謝しきれない。

それから、この場を設けてくれた事にも感謝をした。会議室は本来こういう事に使う場ではない。それでも、融通を利かせてくれたのは、これも踏まえて祝いだと分かっていた。

そして、宣言した。

「この御恩は、この獅子王と、担当と共に、立派な審神者となって返していくつもりです。」

獅子王と担当が目を丸くしている。会場が湧いて、途端に二人が揃って俯いた。肩が振るえていて、サプライズが成功した事を知らせていた。

獅子王が戦場に出たいと思っている事を、知っていた。
担当が多忙でも担当として駆け回った日々を楽しんでいた事を、知っていた。
そばに居たから、気付いた。

子どもは、いや、審神者は、十分に愛に包まれていた。
刀としての生き方を捨てて、八年も戦わぬ刀剣男士として寄り添ってくれた獅子王。
生き甲斐だった仕事を離れて、担当だったというだけで後見人にまでなってくれた担当。

二人のおかげで、審神者は愛を返せる歳になったのだ。

新しい本丸に行く途中、審神者はずっと疑問だった事を聞いた。
獅子王は不器用だが、とても穏やかで人と接するのに抵抗がない。なのに何故、かつて自分とは交流していなかったのか。
その問いに、獅子王は少し気まずそうに言った。

「……鵺が怖いって、泣いただろ。」

それは、三歳の頃の話らしい。

20↑。字書き。なんか色々やりたい放題書き散らかしてます。プロフ画と上の長い絵は自分で必死に描きました。

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  3. 2021/01/21 19:07:59 公開
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