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「はあ人妻NTR…人妻NTR 人妻NTR…...」、@alkali_acid さんからのスレッド

はあ人妻NTR…人妻NTR

人妻NTR…ひと…何が人妻だ。バツイチだってシングルマザーだっているんだぞ。

じゃあシングルマザーNTR…シングルマザーNTR…

シングルマザーがね。失業しましてな。
社員寮みたいなとこから退去させられると。

実家に帰ろうかとも思うが、まだ小さい一人息子に生まれ育った町を後にさせるのもなんだなと思って、何とか物件を探す。格安で住めるところが見つかるんだが、まあいわゆるワケアリ。

行ってみるとでかい屋敷を改装したアパートで、条件としては置いてある調度を動かさないことなんすな。

居間の壁に古めかしい姿見が一枚かかっている。息子はそれが嫌いらしくて不満そう。だがまあとにかく学区変わらずに済むからとシングルマザーは説得する。

どうにか引っ越しも済ませる。骨董っぽい家具は状態もよくて親は割となじむんだが、子供はとにかく居心地悪そうで、鏡を嫌がる。いちおう布でおおっておくが、でも筆箱投げて割ろうとするから叱る。

再就職の準備とかでばたばたしてるところに子供のヒスがね。しんどい。

それに日ごろからヒスるタイプならむしろ慣れっこだけど。今までは超おとなしい子だったからシングルマザーとしては急なヒスに困ってしまうのよ。

「何が嫌なの」
「…」

むーっとふくれている。どうも本人にも嫌な理由が解らないらしい。

物を投げるなと言ったら今度は図工の絵の具でべったり汚してしまう。生まれて初めてぐらいのいたずらに、親あぜん。それから激怒。

とうとう雷を落とし、謝りなさいと言うが、以前は逆らったことない息子が黙りこくってるので限界に達し

「ああそう!そんなら、あんたなんかもうウチの子じゃない!」

と言ってしまう。子供はぎくっとするけど返事せず。
シングルマザーの方がキャパオーバーで洗面所に退避。

涙が出るので顔を洗って嗚咽を殺す。
子供にあんなことを言った自分が情けなくてたまらない。

不意に洗面所の扉ががたがたと鳴って、息子の叫びが聞こえた気がする。慌てて戸を開けると草木の匂いがする。

居間に急ぐと、息子は無事。手巾で鏡の汚れをぬぐっている。振り返ってにっこりする。

「泣いちゃだめだよ。そんなにきれいな顔なのに」

そう言ってそっと手を握ってくる。

指先から肘にかけて甘いしびれが駆け抜けて、シングルマザーは息を詰まらせる。

「あなた誰…ウチの子じゃ…」

言いかけて少年が悲しそうに見返すのでそれ以上続けられない。何を言ってるんだろう。姿格好も声も何もかもお腹を痛めて産んだ我が児そのものなのに。

その日から少年はすっかりヒスがやむ。でも引っ越し前の静かでおとなしい性格に戻るのではなく、ずっと明るく朗らかになる。

いやいやそれどころか。すばらしい親孝行になる。家じゅうをピカピカにし、きれいに整理整頓。上手な洗濯で着るものはふわふわ新品同然。食事だっておいしいものを作る。

以前は掃除をすれば隅っこに盛大に埃を残し、洗濯をすれば三回に一回は洗剤の分量をまちがえ、食事のしたくを買って出ても朝はトーストとミルク、はまだましで、夜は家庭科の授業で覚えたへたなカレーか温めを失敗した冷凍食品。

もちろん一生懸命なのはだろうが、お世辞にも器用とは言い難かった。

何かやろうとしていちいちヘマばかりだった息子の父親を思い出して何となく厳しくもしつけられなかったけど、それがどうしたことか。

シングルマザーはさくらんぼうのスープをつつきながら「どこで覚えたのこれ?」とつい尋ねる。

息子は「忘れちゃった」と答えてにこにこしてる。その眼差しに遭うと奇妙に胸の鼓動がはやまる。

親はまた目の前にいるのが我が子ではない別人のような気持ちになる。でもそんなことを考えてしまう自分が許せない。

「お母さんさ、この前…」
「なあに?」

首をかしげながらそっとまた手を握ってくる。温かくやわかくなめらかだ。あの子の手はもっと冷たかったのではなかったか。

違和感がぬぐえない。

でもシングルマザーは打ち消す。

そうこうするうちに息子はどんどん以前からは考えられなかった行動をとるようになる。お風呂に一緒に入りたがるようになった。アパートにはもとのお屋敷の浴場を改装した共用の入浴施設があって割と広い。そこで一緒に入ろうという。

実は興味はあったが自分だけ行くのもなんだし、息子はアパートのすべてが何となく気に入らなかったしで利用する機会がなかった。

それがどう気を変えたものか。

息子は、低学年の時点ですでに「ひとりではいる」と言い出して以来、親との入浴は絶対拒否だったのだ。

原因はもっと昔にさかのぼり、年長組のころに銭湯で女親と一緒にいるのを近所のおばあさんにからかわれたのが、男としてのプライドに目覚めたきっかけらしい。

シングルマザーはまたちょっと戸惑ったが誘いに乗る。いってみると広くてすごくよかった。天井や壁はちょっとあちこちひびが入っていたが。

息子は小さくてきれいな布袋をいくつか持ち込み、大きなタイル張りの浴槽に浮かべて良い香りを出すと、まるでおとぎ話に出てくる王様のお風呂のよう。

「髪を洗ってあげる」

少年が言い出すと女親は呆れ笑い。

「なんか欲しいものでもあるの?」
「うん」
「なに?」
「ふふ…あとで」

でも任せることにする。細くしなやかな子供の指が泡を帯びて濡れた髪を梳る。一度もひっかからず、極上等の櫛で梳くように。

嗅ぎなれない花の香りがする。こんなシャンプーうちにあったっけと思う。浴場の備え付けだろうか。

少年の指が髪をすりぬけて肌うなじや耳の後ろの肌をなぞるとまたくすぐったさと快さが背筋を走り抜け、おかしな喘ぎが漏れる。

「ストップ…もういいから…あとはお母さんがやるから」

「もっと触っていたいのに」

つまらなそうに囁きながらでも息子はそっと指を髪の間から引き抜く。

肌が火照り、心臓が早鐘を打つ。昂っているのに、寒気に似た不安が襲ってくる。

(…あの子はどこ…?)

一度だけ。ショッピングセンターで息子を迷子にさせてしまった時と同じ気持ち。

でもやがてその冷え冷えとした心地は過ぎ去ってのんびりとくつろいだ一時を過ごしたあと浴場を後にする。以来二人一緒の入浴がならいになる。

息子は髪だけでなく背中も洗うと言い出し、母はいらないいらないというがせがまれて許す。背筋や肩甲骨に触れる指の感触は甘美で疲れと凝りを除いてくれる。

どうしてかま新しい干し草の香りにするふかふかの布団にくるまって夜は眠り、ティーバッグとは思えないハーブのような香りのするお茶の匂いで朝は目を覚まし、目にも鮮やかな赤と緑のサラダや、ホテルでもお目にかからないような完璧な目玉焼きや、かりかりのベーコンが待つ食卓につく。

「今の家庭科ってこんなこと教えてくれるの?お母さんも勉強させてもらおうかしら」
「いいよ。きれいな指が傷むもの」

少年がそっと女親の手をおおい、ミニトマトをとって差し出す。

「はい。あーん」
「…え…ちょっと。食べ物で遊ばないの」
「あーん」
「もう…」

いたれりつくせりの暮らしで、シングルマザーは何歳も若返ったよう。肌はまるで少女のように瑞々しくつややか。やっとありついたコールセンターの仕事にはあんまり意味ないが。

弁当箱をあけて何やら金色の果実と白い鶏胸肉のはさまったライ麦のサンドイッチをかじり、おいしさにあらためてびっくりしながら、考え込む。

こういう食べ物をどこで買ってくるのだろう。せがまれて買い物を任せるようになったけれど、近所のスーパーに売ってるようなものではない気がする。

それにお金が減っていないように思う。

何かがおかしかった。誰かに相談すべきだろうか。誰に。息子が異常に孝行になったと。正気を疑われるだけではないか。

またひどく寒々とした気持ちになる。あの恥ずべき疑い。あの子は本当に息子なのだろうかというひどい感情が湧き起こる。

抑えつけても、抑えつけてもその気持ちは大きくなる。すべてを投げ出していなくなった我が子を探しに行きたくなる。馬鹿げていた。なぜなら息子はちゃんと家にいるのだから。

恐怖は自然に退いて。また穏やかな気持ちが戻ってくる。大丈夫。こんなに幸せなのに何をつまらないことを。

けれど夜になって眠りに就くと、また真っ暗な怯えが胸を捺して、シングルマザーは目を覚ます。いや朦朧としたまま寝床を離れ、ふらふらと家の中を歩きまわる。

掠れた喉で息子の名前を呼び

やがて居間の姿見の前にたどりつく。身の丈よりも大きく、壁の一面にかかったそれは鏡というより窓かあるいは戸口のよう。震える手で覆布を押し分け、黒々とした面を覗き込むと、

風が、

夜の草木の匂いをさせる風が吹きつけてくる。

目をこらすと、月明かりに鬱蒼と茂る木々の輪郭がおぼろに見える。枝々の下に鬼火が踊る。

小さな影がひとつ、森の中を歩いてゆく。

背が低くほっそりとしたようす、いちいち足元を確かめるような歩き方で、すぐわかる。

シングルマザーは我が子の名を呼ぶが、届かない。

不意に奇妙な音が鳴る。楽器のような動物の吠える声のような。

少年は身を縮めてしゃがみこむ。木々のあいだからひゅるひゅると音をさせて細い筋が過っていき、幹に突き刺さる。矢だ。歴史ドラマの中にでも出てくるような。

女親はそばへ駆け寄ろうとするが、指は冷たい鏡の面をなぞるだけ。

拳で叩き、掠れた喉で何度も名前を呼ぶ。だがやがて一切が闇に隠れてゆく。

「どうしたの」

背後から優しい声がかかる。

少年が立っている。息子そっくりの。でも違う。美しすぎる。まばゆすぎる。

「あなた…誰なの…」

つい呟くと、悲しそうな目が見返してくる。すぐ口にした言葉を後悔する。

「ごめん…」
「僕、ずっとそばにいるよ」

抱き着いてくる。温かい。良い香りがする。安心する。

次の晩から息子は一緒に布団に入ると言い出す。

これまた年長組からずっと拒絶していたことを突然気を変えたらしい。さすがにとちょっとと思うが、どうも親の夜の奇行を心配しているらしいとわかり、むげにもできない。

はじめは並んで眠るだけのはずだったが、寝ぼけたのか少年は女親にしがみつく。

シングルマザーは溜息をついて息子の頭を撫でてやる。髪の毛はもっと太くて固かったのにやわらかく少し巻くようになっている。これは将来ハゲるかしらとらちもない心配をする。

甘やかしたのがいけなかったのか、息子はひっつき癖が出て、布団の中だけでなく浴場でも今でもすぐ抱き着いてくるようになった。

とくに湯舟の中でぴっとりくっつかれるのはさすがに困惑してたしなめたが、悲しそうな目で見返されるとまたやましさから許してしまう。

まるで年少組に戻ったかのようなべたべたぶりだが、相変わらず家事は完璧にこなすし、学校の成績も抜群。友達の話をしないのが気になるが、いじめられている風でもない。

たまに保護者同士で話をすることがあっても、誉め言葉しか出てこない。特に女子の親からは好感度が高い。

以前の息子は、女子からはかなり敬遠されていた。

「あんまりウチのことばっかやらなくていいからね。お母さん甘えちゃってるけど」

そんなことを言うはめになろうとは。でも少年はにこにこしながらシングルマザーを楽しそうに眺めるだけ。

なんだかこそばゆい。親離れできなくならないだろうか。というか子離れできなくて困るかもしれない。

時々奇妙な不安に襲われたのは、将来大きくなった息子がそばからいなくなる予感だったのかもしれない。だとしたら情けないにもほどがあった。

けれどもシングルマザーはまた夜中にうなされた。息子が遠くどこかに離れていて、助けを必要としているのに気付いてもやれない。そんな気持ちが理由もなく沸き上がってもがく。するとそばにいる息子がしっかり抱きしめて、ささやく。

「僕はここにいるよ」
「…あ…ああ…」
「だいじょうぶ」

接吻の雨を浴びせてくる。頬に、瞼に、鼻に、顎に、唇に。すると甘い痺れが伝わって、不安はやわらいでかすんでいく。

発作のように不安が訪れるたび、そうして少年は女親を口づけで鎮めた。落ち着いた相手に「おまじない」と囁いて笑いながら。

おまじない、は徐々に回数を増していった。朝起きてすぐ、帰って来てすぐ。出かける前やお風呂の前後でも。

はじめは頬や額。やがて唇に。小鳥がついばむような罪のない接吻。くすぐったい親愛の表現。でも徐々に長く。唇が触れ合うようになり、ちろりといたずらっぽく舌が舐める。

「だめ。お母さんもうお化粧しちゃったから。おまじないはなし」
「…えー…えい」
「!?こら」

たまにそんないたずらもする。ルージュがうつった唇を開いてけけけと笑う息子に、シングルマザーも呆れ笑い。

「ごめんなさい。なおすね」
「いいから学校いく用意しなさい」
「なおす」

最近は少年がせがむと女親はなんとなく逆らえない。しかたなく居間の姿見の前に座らされ、横から少年に口元を触らせる。

「ほらできた」

艶やかに化粧が直されている。

「…どうやって」
「いいでしょ?ね?」

少年が有頂天なのでシングルマザーはまあいいかとなって出かける。これがよくなかった。また化粧をしたあとおまじない、化粧直しが日課になった。

さすがに登校・出勤時間がぎりぎりになるからとたしなめると、じゃあ化粧の前におまじない。その後に化粧もさせてという。何が楽しいんだか解らないが。

諦めて好きにさせることにする。すると必要最低限仕方なく、といったメイクはまるで見違えるよう。一日働いても崩れない。

帰ってきても出かけたときのままで、びっくりするほど。でも息子が化粧を落とすのもやりたがる。

「変な子」
「きれいにしたい。もっと…こんなにきれいだから」

家事から化粧までやってくれる少年に、まるでおとぎばなしの妖精のようだなと思うシングルマザー。またふっと胸にわだかまりが生じるが、

めざとく見てとった息子が手の甲におまじないをすると消えてしまう。

「あんた来年には羽が生えて空飛んでるんじゃない?」
「ぷふふ。なにそれ」

完璧すぎて気味が悪い。

と思ったら、ひさしぶりに洗濯で失敗したというそれも盛大に。

何をどうやったらそうなるかというぐらいシャツがぼろぼろ。

「ちょ…これ、夏休みの」
「ごめんなさい…」
「…いいけど」

息子が自分で夏休みの体験学習に作った草木染めだ。いちおうシングルマザーへのプレゼントということで、もったいないので着ずにしまっておいたのだが。

「あんたこれ頑張って作ったんだから大事にしてたのに」

もともと息子のプレゼントなのだから文句を言う筋合いではないのだが結構ショック。

さすがにしょげている。まあでも人が変わったような少年もドジはするのだと解ってほっとした気持ちもある。

「新しいの…ちゃんと」
「いいからもう」

女親はぼろぼろのシャツの残骸をそれでも捨てるにしのびなくしまおうとするが、少年はひったくてしまう。

「新しいのちゃんとあげるから!」
「あげるったって…」
「お願い!」

「じゃー…お願いしよっか」
「うん!」

かわりにもってきたシャツは薄く軽やかな布地で綾な透かし織りが入った不思議な一枚だった。どうしたのというと秘密という。

まさかお年玉使ったのというと、あいまいに肯定する。
風。

「やめなさいよもう」

とは言え息子は中学年の時、お年玉で女親のためにこっそりコンビニで誕生日のケーキを買ったことはあった。

明らかに息子自身が好きなチョコレートのやつで、結局大半本人が食べてしまったが。

しかし変わっていないのだなと思うとふふっとなる。

「ところであのだめになったシャツどうしたの?」
「…うーん」
「やっぱせっかく作ったやつだししまっとかない?」
「すてちゃった」
「…?!あ…そう…」

ここで甘い顔をしたのがよくなかったのか。息子はまた洗濯ものをだめにした。色落ちさせたり縮ませたり。

そのたびにかわりのをあげるという。女親はさすがにダメと言うが、あくまで主張する子供に折れる。

「洗濯はお母さんがやるから。もうあんたはいいから」

すると向こうは悲しそうな顔になる。

「とにかくもうお年玉でお母さんの服買うのはだめ」

なんとか説得する。したはずだが、少年は

「じゃあ直す」

と言い出す。いくらなんでもと思うが

「好きにしなさい」

とだめになったシャツなどを渡す。

すると息子は本当に直してしまう。縮んだものはきれいに伸び、色落ちしたものは染め直され、裂け目ができたものはかがられ、新しい刺繍が入る。

アウターからインナーまで、次から次へ傷むが次から次へ直してしまう。そして直したものはもう傷まないのだ。

鳥や蔓草や花の刺繍、貝殻を削って磨いたようなボタン。伝線したストッキングまで繕われ、優雅に泳ぐ魚と泡の模様が入れられている。

「…なにこれ…」

シングルマザーは身震いする。おかしい。おかしい。深呼吸をする。花の香りでむせそう。食卓におかれたあの花はどこで買って、いや摘んできた。

「…こんなことあるはずな…」

名前を呼ばれる。はっとして首をそちらに向けると、少年が近づいて唇に唇を合わせる。小さな舌がせがむようにつついてからひっこむ。不安が退く。

「おくれるよ?」
「…やだこんな時間」

どこか普通でなくなった華やかな衣服をまとって、可憐に化粧をしたシングルマザーは軽やかに出かける。靴が快い響きをさせてアスファルトを叩く。

ふと見下ろすとパンプスの縁に銀の波模様が入っている。前からあったろうか。とにかく足が弾むようだ。

道行くものがシングルマザーを振り返るようになる。それはそう。まるで別人のように麗しい。おとぎ話のように。

そう。
でもここはおとぎ話の世界ではない。だから変身がよいこととは限らない。

いつも使っている立体駐車場で男にからまれた。かなりしつこく。飲みに行かないかと、手首を掴まれて無理矢理連れていかれそうになった。どうにか振り切って車に乗って逃げ帰ったが震えが止まらなかった。

「なにがあったの?」

少年が尋ねる。

「ちょっと嫌なことがあっただけだから。気にしないで」

そう答えるが息子は女親の手首が腫れているのに気付く。

「それ…誰がやったの」
「自分でぶつけたのこれ」

どうしようもなくしんどくて翌日は仕事を休む。息子も学校へ行かずそばにいようとするが、いいからと登校させる。

悔しさと気持ちの悪さに涙が出るが、とても子供に見せられない。

おぞましい世界。ずっと生きてきて慣れていたはずなのに。油断していただろうか。

息子は午後には帰ってきて、通学鞄を片付けるとかいがいしく世話をしてくれる。

「ありがとね」

がんばらねばと思う。外に出る勇気は沸いてこないが、しかし働かねば。

「外は危ないよ」

息子が言う。

「気を付けるから大丈夫」
「行かなくてていいよ」
「そういう訳にいかないでしょ。お母さんお仕事あるんだから…」
「いかなくていいよ」

「ありがとねー。でもいってきます。そうだ。おまじない、しよっか?」

冗談めかして言うと少年はほっそりした指で女親の量頬をはさんで抑え、深々と接吻する。焼け付くような唇。舌が入り込んでくる。唾液が混じる。甘い。

全身に火が広がったようで、シングルマザーはへたりこむ。

「あれ…?」
「ぐあい…わるそうだよ」
「…へいき…だから…」

スカートにしみが広がっていく。なんだろう生理とかじゃなくて。ひどい。おもらしだ。

「ごめ…ちょっと…やすむから…あんた学校いきなさ…」
「つかまって」

どうにか布団に戻る。手足の力が抜ける。震えが来て、悪寒がする。

服も着替えられないので結局すべて少年に手伝ってもらう。ひどく汗をかく。暑くてたまらない。

寝間着はすぐぐしょぬれになる。何の病気だろう。息子にうつらないだろうか。

「救…急…車」
「僕がそばにいる」

小さな手がびしょびしょの寝間着を脱がせてくれる。涼しい。濡れたタオルで肌が拭われえる。快い。

コップの縁が唇に触れるがうまく呑めない。ストローか何かなくちゃ。どこにしまってたっけ。あの子と工作でシャボン玉吹きに使ったきり…。

やわらかい唇が触れ、冷たい水が口腔に流し込まれる。

高熱で身動きもできないままシングルマザーはそうして看病を受けた。

口移しで水を呑まされ、まるで赤ん坊だった我が子に毎日そうしていたように今度は親の己が素肌を隅々まで拭われて、

しんどいのは用足しの世話までされることだ。おむつをくれとも言わない。盥が押し当てられる。

「立てるか…やってみるから」
「だいじょうぶだよ。僕できる」
「…おねが」
「ちゃんと出して」

ささやかれると抵抗がしづらくなる。勢いよく水がプラスチックを叩く音がする。

終わるとウェットティッシュできれいにふきとってくれる。息子が赤ん坊のころそうしたように。

バカみたいだった。でもありがたかった。初めは。

段々と恥ずかしさや情けなさとは別のものがシングルマザーをむしばんだ。

気持ちがよいのだ。ただ爽快なのではなく、じんじんと神経がひりつくように。

少年の指が触れるところが、たとえタオルやウェットティッシュごしでも、火傷したようにうずき、甘痒い余韻を体の奥へと食い込ませていく。

「ぁっ…んっ…ひっ…ぁっ…」
「へいき?」
「…も…いいから…あっち…いってな」
「くるしいの?」
「いい…から…救…急…車…」

懊悩の芯に唇が触れる。たちまち爆ぜるような恍惚が背筋を貫く。

「きぁあっ…!?」
「おまじない…」

おまじないをすると、火照りも悪寒もすっと薄れる。

「だめ…だめ…おまじな…だめ」
「がまんしないで」

がまんなどできなかった。しばらくすると熱と甘痒さは倍増しになって襲ってきた。起き上がることすらままならない女親にとっては少年の介抱と愛撫と接吻だけが唯一縋れるものだった。

口移しの給餌と給水。盥に汲んだ温かい湯で体と髪を洗われ、別の盥に用を足す。

それからおまじない。瞼、鼻、唇、耳たぶ、肩、腕、足、胸、腹、やがて最も疼く臍の下にも。

「だめ…だめっ…ぁっ」

少年はためらいもなく女の芯を、花にたかる蜂鳥のようについばみ、祝福を素直に受け入れるよう馴らしていった。

おまじないを重ねるにつれ、手足は動くようになった。どうにか赤ん坊のように這えるほどには。
だがトイレまではとても行けなかった。
シングルマザーの寝床の横に、少年はおまるを置いた。そんなもの家にあっただろうか。なかったはずだ。木でできた彫刻入りの水鳥のかたち。

とにかくしがみつくようにまたがって用を足そうとした。でも出ない。

「おまじない」

少年がうなじを噛むように接吻するとふいに緊張がゆるんで済ませられた。

「ぁ…ぅ」
「だいじょうぶ。きれいだよ」

名前を呼び捨てにしながら少年はそっとシングルマザーの髪を撫でる。

あの子はいつも、お母さん、と呼んだのに。

また寒気がする。

でも家中にこもる香草や花や蜜の匂いがすべてをおぼろにしてしまう。おまるにしがみついたまま周囲を見回す。背の高い燭台で蝋燭の灯が燃えている。天井のLED照明はどこへ行ったのだろう。

カーテンはあんな柄だっただろうか。壁紙も変だ。つづれ織りがかかっていてよく解らないけれど。

「ねて?」
「…そとへ…でたい…きるもの」

少年はちょっとためらってから肌の透けるようなガウンを与えてくれた。こんなものは家になかった。シングルマザーは震えながら袖を通そうとし、つんのめって横向きに倒れ、その衝撃でまた失禁して、濡らしてしまう。

「…ぁ…う」

みじめだった。

「きなくてもいいよ。僕がいるだけだから」

少年はそう囁いてくれる。女親は涙ぐみながらうなずき、赤ん坊のように塵ひとつない絨毯を這って廊下に出る。

間取りはちゃんと元のアパートのまま。でも内装はいつの間に変わり果てたのだろう。

居間には壁一面に窓かあるいは戸口を思わせる姿見がかかって、曇りひとつなく磨き上げてあった。縁を巡る装飾は弓を携え鹿にまたがる乙女や、三つ首の鷲を肩に載せた若者。顔立ちはどこか狐を思わせる。あんな風だったろうか。気味が悪い。

あの子はずっと嫌がっていた。

「おいで」

少年は毛皮のかかった長椅子にシングルマザーを導き、席に引き上げる。まっすぐ身を起こすと視界がぐるぐると回転してつらい。

女の顔色を察した男児はそっと横たわらせ、膝枕をすると、裸の背をさすった。

「あんた…学校」
「いいよ。そんなこと」
「先生に連絡しなきゃ…ごめん…携帯とって…」
「うん」

刺繍のあるなめし革の手帳に入った端末を渡される。思わず吹き出してしまった。画面を開く。メッセンジャーが消えている。連絡先も。初期化してしまったのだろうか。

学校の連絡先を検索しようとしてニュースが目に入る。近所のことだ。何も変わっていない。おかしくなったのは家の中だけだ。ゴミの分別ルールの変更、クマが出た話、不審者情報。死亡事故。立体駐車場。いつも使っているところだ。見つかった遺体は男性。年齢も書いてある。

ぞくりとする。

少年を振り返る。いつも通りにこにこしている。

「…もういい?」

携帯を受け取ろうとする。

「だめ…お仕事の…連絡もしなきゃ…いけないから」
「どうして?」
「しごと…いかないと」
「いかなくていいよ」
「だめ」
「どうして?」
「お母さん…お給料もらってるんだから…」
「おかね?」

少年は指を開いてチャリンチャリンと硬貨を落とす。

「おかね、あげるから」

シングルマザーは笑う。ませていても世間知らずなところはまだあるのだと。ふと視線を落として、硬貨の色も形も尋常ではないのに気付く。暗い金色。

縁が奇妙に角ばっていて、一枚が見せている表面には向かい合った蝶、もう一枚が見せている裏面には、少年の横顔が彫られている。明らかに異人種で、まるで知らないはずなのに、どこか見覚えがある。

「好きなだけ、あげる」
「…あなたは…誰?」

震えながらシングルマザーは尋ねた。

悲しそうな目。そっと口づけしようと迫ってくる唇。女親は弱々しく長椅子の毛皮に顔を伏せた。

「…やめて…」
「どうして?僕のこときらい?」
「ウチの子を…どこへやったの」
「…だって、いらないって言った」

「…あの子は…あの子はどこなの?」
「いらないって言ったよ。もう子供じゃないって」
「あの子はどこ?どこなの?どこなの!???」

シングルマザーは夢から覚めたように起き上がり、息子そっくりの、だがまるで異なる生きものの肩を掴んだ。どこにそんな力が残っていたのかと思う強さだった。

少年は溜息をついて、姿見を顎で示した。
もはや覆い布のない鏡を、女親が見やると、昼なお暗い森がかなたに浮かび上がる。

葉を蔦で連ね編んだような粗末な外套をまとい、傷だらけの汚れだらけになった子供がひとり、まがりくねった小川に沿って歩いている。片足は引きずっていた。

シングルマザーは息子の名前を呼んで、身を乗り出そうとし、突っ伏した。

「じっとしてて。まだなおっていない」

鏡の向こうで矢が飛んで、少年の側に突き刺さる。

女親は押し殺した悲鳴をもらす。

「遊んでるだけ。本気ならもう死んでる」

木々の間から、鹿にまたがった乙女があらわれる。手には弓。背には矢筒。顔には木の面をかぶっている。その向こうで瞳がきらめいていた。楽しげに。

「やめさせて…やめ」
「遊んでるだけ」
「あの子をこっちに戻して…」
「ウチの子じゃないって言った」
「違う!そんなことない!…違うの…」

シングルマザーは少年にしがみつく。

「なら私…私もあの子のところへ行かせて。私もあそこへ行かせて」
「あっちへ行きたいの?」

男児はよしよしと女の髪を撫でる。振り払いたかったが機嫌を損ねる訳にはいかない。

「行かせて…できるんでしょう?そうなんでしょう?」
「戻ってこれないよ」
「何でもいい…お願いだから…」
「じゃあね…言って。自分はこのウチの子じゃないって」
「え…」
「僕と一緒に向こうに行くって。そしたらうまくいくよ」

「本当に…?」
「うん…ちゃんと…言えたらね…おまじないで助けてあげる」

少年はそっとシングルマザーに接吻した。舌を差し入れ、口腔をねぶり、唾液を味わいながら、幼げな指は巧みに肌を這いまわり、官能を呼び覚ませた。まるで女の扱いに慣れ切っているかのように。

それからシングルマザーは誓った。自分はこのウチのものではない。出ていくと。少年とともに。

すると鏡はわずかに鈍く輝いた。だが触れると抵抗があり、通り抜けることはできなかった。

「もっとちゃんと」

少年が指図すると、女親は懸命に言葉を変えて誓った。だが結果はかんばしくなかった。心から口にせねばならないと、そう幼げな導き手はささやいた。

ウチへの未練を捨てて、ソトへ出てゆけるように、女は繰り返し繰り返し叫んだ。こんなところどうでもいい。うんざりだ。

それだけでは足りなかった。今までの暮らしの何もかもをけなし、吐き捨て、呪っても自由にはなれなかった。

息子と暮らした場所だったから。

「あの子のことも、どうでもいいって言わなくちゃ」
「…そんな…そんなの」
「僕が助けてあげる」

少年は女の全身におまじないを与え、ためらいを溶かした。

鏡の前でシングルマザーは言われた通りに叫んだ。

「あの子なんてどうでもいい」
「僕がいる」
「この子がいればいい…この子と一緒にむこうへ…鏡のソトへ行くから…だからウチにはもういたくない!あの子と暮らしたウチなんてうんざり!」

堰を切ったように言葉は溢れた。どれだけ息子が重荷だったか、苦痛だったか、縛られ、つながれ、自分のすべてが奪われてきたか。

一方で新たに鏡からあらわれた子がどれだけ素晴らしいか、快いか。

うまく言えると少年は褒美を与えてくれた。正解に近づいているのを知ってシングルマザーは歓喜した。

姿見に肘をつけ、足を開き、鏡面を熱い吐息でくもらせながら、女親はいびつな笑みを浮かべてままやいた。

「あの子はうっとうしいだけだけど…この子は…すごく…すごぐきもち…いっ…あっ」

少年は女を征服するのに慣れた大人の男のように後ろからのしかかり、貫いた。

そうかと想えば長椅子の上に座り、女を膝に乗せて踊らせた。

鏡の前でシングルマザーはどんな痴態も演じた。すべての穴の使い方を覚えさせられ、おまるにまたがって、たらふくつめこまれた子種をこぼしながら、必死になってウチを捨てると訴え続けた。

疲れ切ると姫君のように浴場で少年に洗い清められ休まされ、目覚めるとまた奴隷のように少年に額づいて口で奉仕した。

「よかった。やっぱりとっても子供をだいじにするんだね。むこうにいったら、たくさん産んでね」

少年がそう告げて頭をなでると、日に日に大きさを増すように思える雄の印を咥え込みながら、女は当惑と媚びと祈りを含んだ上目遣いをする。

「体はもうだいじょうぶ。できたよ」

やがて姿見は輝いた。ウチを捨ててソトへ行くものを歓迎するように。

さて。鏡の向こう側ではどうなっていたかというと、幼い少年が小さな拳で何度も何度も殴りつけていた。

だいぶ痩せてしまったけれど、本物の息子で間違いない。

「お母さんお母さん!お母さん!」

叫んで体当たりをするが、弾き返される。

背後から矢が飛んできて、少年の背をかすめて、鏡にあたって跳ね返る。

「とうとうここまで辿り着いたか」

楽しげに告げながら木の面をかぶった狩人がやってくる。言葉は同じようで違うようで。とにかく意味は伝わる。

「たまには王子の遊びに付き合うのも悪くはない」

少年は聞こえているのかいないのか、またよろよろ起き上がると鏡にむかって突進していく。頭からぶつかろうとしたところで、細い肩を狩人が捉えて引き戻す。

革の籠手をはめた指が食い込み、微動だにさせない。

「…貧弱な生きものにしてはよくやった。母恋しさからだとしても。森でこれだけ生き抜いたのは褒めてやる」

少年は食い入るように鏡の向こうを見つめている。

「ここに残るなら勢子として取り立ててやろう」

狩人は囁く。

男児は足に力をこめて鏡の方へ進もうとした。

滑って、つんのめるのをまた狩人が支える。

「では聞くが良い。向こうの声を」

石のようになったまま、息子は母のようすと声をすべて目にし耳にした。

「まだ帰りたいか?」
「帰る…お母さん…」
「帰ってももう向こうにいる女はお前の母ではないぞ」
「帰る…帰る」
「こちらに留まれば狩の楽しみを教えてやろう。狩り立てられるかわりに狩る側になれるぞ」
「帰る…帰る」
「帰ればお前は二度とは来れぬ。それでもか」
「帰る」
「見上げた頑固さだ」

狩人は木の面ごしに瞳をきらめかせた。

「向こう側のものもなかなか愉快だな。気に入ったぞ。特別だ」

そうして捕えた矮躯を掴み上げると、そのまま鏡にたたきつけた。

目を覚ますと、少年はふかふかの布団の中にいた。ほのかに真新しい干し草のようなにおいがする。

起きると今度は食べ物の匂いがする。ベーコンとバター。目をこすって寝室を出ると、食卓に皿が並んだところ。オレンジジュースのグラスもある。お腹が鳴る。

「寝ぼすけ」

シングルマザーがからかう。

「…おはよ…ぅ」

もごもごつぶやきながら席につく。母も向かいに座る。食事はとてもおいしかった。卵もベシャベシャじゃないし、サラダはなんか野菜がパリパリカリカリしてる。

ウチのごはんはこんなにおいしかったっけ。随分長いあいだ食べていない気がする。どっちにしろカブトムシの幼虫とかに比べたら何でもおいしいに決まってる。

そう思ってからどこでそんなもの食べたんだっけと、少年はぼんやりして、親にせかされてまた手と口を動かす。

きょろきょろと見回す。何となく居間のようすが変わった気がする。

「あれ…かがみは?」
「あああれ?あんた嫌がるから片付けた。どうせもう使わないでしょ」
「…ふーん」

しばらくしてぴたりと手を止めて、息子はじっとシングルマザーをうかがう。

「……?」
「何?言いなさいよ」
「…なんでもない」
「じゃー学校いくしたくして」
「うん」
「はいでしょ」
「…はい」

通学鞄を背負って玄関まで行ったところで、振り返る。女親はきちんと着替えを済ませ、化粧も済ませている。今日は遅出なのかゆったり落ち着いている。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい。あそうだ」

いきなりシングルマザーは腕を伸ばして、息子のシャツの襟をむずと掴むと力任せに引き寄せ、

喰いつくような接吻をした。餌食にかじりつく肉食獣のような。仕留めた獲物を喰らう狩人のような。

「ぷはっ…おまじない」
「…ぅぇっ…」
「ほら、行った行った。遅刻するよ」

少年は耳が火照り、体の芯が熱くなるのを覚えながら、ふらふらと、戸口を通って出てゆき、振り返った。

女親はしゃんと立ったまま手を振っている。いつもと変わらない。いやいつもより堂々としているようだった。

「…だれ…」

思わずぽつりとつぶやいてから息子は瞬きして頭を振り、駆け足になる。

見送ったシングルマザー、と姿形も声もそっくりの誰かは、にじんだルージュを指でなぞると塗り拡げて耳まで裂く模様に変えてから呟いた。

「続きのおまじないはまた後で…」

鏡の向こうの森の館では王子が狩りから帰還し、盛大な祝福を浴びているところだった。

狙った獲物を見事仕留めて持ち帰り、見せびらかしながら。あどけないかんばせには、満悦の表情が浮かぶ。

臣下のものから子飼いの狩人が一人出奔したと聞いて少し驚いたが、すぐ優しい笑いをほころばせる。

「戻ってきたら驚くよ。森に子供がいっぱい増えて、ね?」

そう訊きながらまた得意のおまじないをすると、子供等の母は、甘くひずんだ絶望の咽びをこぼすのだった。

おしまいじゃ。

R-18小説サイト管理人。おねショタ大好き

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  2. 帽子男
  3. 2021/05/06 20:41:44 公開
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