シェア

「あと好きなのは、盲目のピアニス...」、@mkmk____kmkm さんからのスレッド

あと好きなのは、盲目のピアニストと彼がピアノ弾いてるバーのバーテン。オーナーの趣味でグランドピアノはあるけど特に誰が弾くこともなく客のオモチャにされてたんだけど、ある日訪れた客の一人が「ここピアノあるの?」って興味を示した。
見りゃわかるだろってバーテンの男は思ったんだけど、

客が白い杖を持ってるのに気付いて(目、見えないんだ)って納得する。全盲らしい青年は一緒に来てた人に誘導されてピアノに近付く。
「でもこのピアノ、長いこと調律してないっぽいよ」
「そうなの?触ったら怒られちゃうかな」
「酔った客がたまにオモチャにしてるの見るけどな」

「そうなんだ。じゃあ寂しくないかな」
妙な受け答えをする青年に、バーテンは興味が沸いてくる。そこに顔を出したオーナーが、青年がピアニストだと聞くと快くピアノを弾かせてあげる。
「俺調律しようか?」
「いーよ。このまま弾いてみたい」
青年は躊躇なく腰掛けて、戯れるみたいに

端からきれいな指使いで鍵盤を辿る。音階がところどころずれると、青年は楽しそうにくすくす笑って狂った鍵盤を何度も叩く。
「かわいい。たくさん遊ばれちゃったんだね」
僕とも遊んでね。そう言うと、青年の雰囲気が変わる。
威圧感があるわけじゃない。空気が張り詰めるのとはまた違う。

けれど、声を出すのが躊躇われるような厳かな空気が店内を満たしていた。
走り出す瞬間にも似て、青年はその白く長い指を鍵盤に踊らせた。
ビリビリビリ、と全身に痺れが走る。バーテンの男は、それまで散々酔っ払い共が騒音を立ててきたものと目の前のピアノが同じものだとは思えなかった。

(あのピアノ、生きてたんだ)
なんとなくそんな感想が浮かんだ。お前そんな良い音出たんだ、とか。そしてなにより、そのピアノを生き返らせた青年から目が離せない。
本当に盲目なのかと疑いたくなるほど、彼の指は自由だった。両手で十本。たった十本の指が奏でているとは到底思えない音の洪水。

店内の客が全員おしゃべりをやめた。
しかし、たった一人だけおしゃべりを楽しんでいる客がいる。
盲目の彼だ。
彼はピアノを弾きながら、ピアノとおしゃべりをしているようだった。これはできる?これなんてどう?次はこうだ、と声が聞こえてきそうなほど、彼の指は、表情は、体は、雄弁だった。

時間が止まった気がした。
バーテンがハッと我に返ったのは、店内に拍手と歓声が響いたからだった。
一瞬なような気もするし、何時間もこうしていたような気もする。時計を見やれば、長針は五分しか進んでいなかった。
調子の狂った鍵盤なんて分からなかった。ただ青年の演奏が圧倒的で、非現実的で、

バーテンの心臓を掴んで離さなかった。
名残惜しそうに鍵盤をぽろんぽろんと触る彼に、バーテンは思わずカウンターを飛び出していた。
「あの!」
「うわ!誰?なに?」
「ここの名物バーテン。超イケメンのな」
余計なこと言うなよと連れの男を睨みたくなったが、いまはそれどころじゃない。

「あんたここでピアノ弾かないか!?」
口をついて出た言葉に、目の前の青年が目を見開く。連れの男も驚いた顔をして、けれどすぐに呆れた表情を浮かべた。
「悪いけど、こいつこんなところで雇えるようなやつじゃ…」
「いいよ」
「ほんとか!?」
「はぁ!?」

青年はあっさりと快諾した。
実はこの青年は音楽業界だと結構有名なピアニストで、連れの男が言うように本当にこんなところでピアノを弾かせていい人物じゃなかった。
「でも毎日は無理かも。週一……なら来れるかな」
次に焦ったのはオーナーだ。そんな人物にピアノを週一で弾かせるなんて

いったいいくらかかるか分かったもんじゃない。
「報酬?いらないいらない。オフの日に来るから大丈夫。僕のプライベートになにしてようが僕の勝手だし」
「安売りしてんなよ」
「みんなが高く買いすぎなんだよ」
その代わり、と青年はバーテンに向き直る。

盲目のはずなのに、その白く濁った目にまっすぐ射抜かれた気がした。
「ちゃんとお兄さんも聴いててね」
「分かった」
「お酒作るより僕が優先だよ」
「分かった」
仕事はしてねぇ!?とオーナーの悲鳴がこだました。
そしてこのバーに、週に一回とんでもないピアニストがやって来ることになったのだ。

っていう二人の男の出会いの幻覚を何年も見続けてるんだよって言いたかった。BLだよ。

いやこっからよ。こっからなのよ。青年がここでピアノ弾くようになったら噂を聞き付けてピアノ弾ける人たちがたまに訪れるようになって、連弾とかしたりする日もある。
いつもなら青年はバーテンに聴かせるように「こっち見てる?」「余所見しないでよ」って感じでピアノで絡んでくるのに

連弾がはじまると隣に座った人間のことばっかりになる。バーテンはそれがめちゃくちゃに気に入らない。
どうせピアノなんて弾けない。自分の持っているもので、彼の気を惹けるようなものなんてろくにない。みんなが誉める整った容姿なんて彼には一ミリも価値がなくて、アルコール苦手なんだよねなんて

言われた日はショックでいつ家に帰り着いたのか分からなかった。
そう、恋をしている。憎からず想うとかそんなレベルではなく、バーテンは彼が好きで好きで仕方がなかった。
嫉妬にじりじりと胸を焼かれながら聴く二人分の音は実に耳障りだ。彼のピアノだけ聞きたいのに。くそ、羨ましい。

そいでさぁ、バーテンが閉店後にこっそりピアノの練習とかし始めちゃったら可愛いんだよなぁ。
帰ったと思ってた青年がまだ帰ってなくてさ「あれ?誰が弾いてるの?」って近寄ってきちゃうから、バーテンはホラー映画の主人公みたいに息を殺してじっと固まる。どうにかやり過ごしたい。

そんな願いも空しく、青年の伸ばした手がバーテンの肩に触れる。
でも青年は止まらなかった。肩から腕、腕から手の甲、指、と輪郭を確かめるように優しく辿っていく。
心臓が口から飛び出しそうなほどドキドキした。好きな人からこんなふうに触られて冷静でいられる人間がいるならお目にかかりたい。

青年は最後にぎゅっとバーテンの手の甲から握り込んで「バーテンさんの手だね」って笑い混じりに言う。
「……なんで分かるんだよ」
「僕の手を引いてくれたこと、何度かあるじゃない」
「……………」
ドキドキしてるのは自分だけ。そう思ったら頭が急速に冷えていく。

誰にでもこんなことをしてるのか、とか。こんなの挨拶代わりみたいなもんなのか、とか。
「ピアノの練習?」
「そんな大層なもんじゃない」
「教えてあげよっか」
「いや、いい」
「詰めてー」
「だからいいって、ちょっと!」
ぐいぐいバーテンを押しやって僅かにできた座面の空きに腰かける青年。

下手に抵抗して突き飛ばしでもしたら大変だ。怪我なんてさせたら。そんな言い訳を頭の中で繰り返しながら、そっと自分が退けば済む話だとは気付かない振りをした。
「まずは指の使い方からだね。僕の真似して」
結局青年のピアノ教室は始まってしまった。

青年に出会うまで人生でピアノなんて触ったことまなかったバーテンは、我ながらたどたどしい指にはずかしくなる。でも青年が少しも気にした様子もなく、笑うこともからかうこともなく、本気で教えてくれてるのが分かったから真剣に取り組んだ。
「ピアノ、興味持ってくれたの?」

不意に聞かれて、バーテンは言葉に詰まる。別にピアノが好きなわけではない。彼の弾くピアノが好きで、ピアノと戯れる彼が好きで、もっと近くで彼を感じてみたいと思っただけだ。
不純な動機を、まさか言えるはずが。
「もしかして焼きもち焼いた?」
「は!?バっ、まっ、はぁ!?」

盛大に動揺してしまった。バーテンが声を荒げることは滅多にない。それこそ、青年にここでピアノを弾いてほしいと頼みに行ったとき以来だ。バーテンの慌て振りに、青年は腹を抱えて笑う。
「あっはははは!そんな、おっしゃる通りです!みたいな!あははは!」
「笑うな……!」

青年は一頻り笑うと、目尻に浮かんだ涙の粒を拭った。
「あー一生分笑った」
「………………」
「あ、こら。僕人の顔色見るとか出来ないんだから、黙るのはルール違反」
「そんなルール知らないぞ……」
「じゃあマナー違反」
「マナー講師もびっくりだろ…」
「それで、焼きもちだっけ」

唐突に話を戻されて、やっぱり動揺する。
青年はもう笑い転げたりしなかった。
「僕がお客さんと連弾したから?」
「…………」
「次黙ったらレッドカード」
「レッドカード出されたらどうなるんだよ…」
「秘密」
こいつ、と眉間に皺が寄るが、目の前の彼は生憎とそんな表情も見てはくれないわけで。

「僕が誰かと一緒にピアノ弾いちゃうと、焼きもち焼いちゃうの?」
「……だったらなに」
そんなふうに言い返したとしても、白状してしまったようなものだ。
なんと返ってくるか。不安で胸が痛くなる。指先が冷える。
「──なにが弾ける?」
「は?」
「なんでもいいよ。きらきら星とか」

いきなりなにを言い出すのかと、困惑する。
「弾けないって」
「きらきら星も?ほら、ド、ド、ソ、ソ、ラ、ラ、ソ」
「いやさすがにそれは知ってるけど」
「じゃあ弾いて。僕が伴奏。連弾しよ」
言うなり、青年は鍵盤の上に手を置いてしまった。バーテンが弾き始めるのを待っている。

もうどうとでもなれ、と慣れ親しんだメロディーを思い出しながら拙い指で鍵盤を押す。
同時に、傍らで青年も動き出す。
こんなみっともないきらきら星が、青年の伴奏で見事な旋律に変わる。青年は鍵盤に集中しているだけじゃない。バーテンの指が出す音を、呼吸を、少しも聞き逃さないようにと

耳をそばだてている。
(俺の指が見えてるわけでもないのに、なんで分かるんだ)
それだけ、青年が全神経をバーテンに注いでいるということだった。
せめてつっかえたりしないようにバーテンも集中した。
いま、彼の世界には自分しかない。その事実にどうしようもなく嬉しくなる。

最後の鍵盤を叩き終えると、青年は鮮やかに演奏を締め括った。
音の余韻。沈黙が長く続く。
「……僕のこと好きでしょ」
彼の言葉はどうしてこうも直球なんだ。返事に惑う。頷いていいものか。誤魔化すべきか。
人生を左右する重大な選択だと言うのに、非情なピアニストは猶予をくれなかった。

「レッドカードって言ったじゃん」
そう言って、その細く長い指でバーテンの顔に触れる。場所を確認するように、両手で頬を挟まれた。
息を飲む。声が出ない。近付いてくる見慣れた顔は、しかしこのときばかりは初めて見る表情をしていて。
唇に触れた吐息と、薄い皮膚の感触。

キスをされた。
ただ触れ合うだけのそれに、もう止めようもないほど溢れてくるものがある。
「……好きで、悪いか」
こんな憎まれ口を返したいわけじゃなかったのに。
けれど彼は、満足そうに微笑んだ。
「僕も好きだよ」

  1. トップ
  2. くも
  3. 2021/05/20 21:33:09 公開
シェア

「すまとめ」はTwitterの長文スレッド(長文スレ)・連続ツイート(連ツイ)を1つの記事にキレイにまとめるサービスです。長文スレの最後に、「@matomesu まとめて」とコメントを付けるだけで、まとめ記事がこのように作成されます。

おすすめスレ