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「その審神者は、御手杵に恋をした...」、@97hatopoppo さんからのスレッド

その審神者は、御手杵に恋をした。

「……えぇ? そうかぁ……。」

御手杵は、審神者の想いを聞くと心底困ったような顔をして言ったのだ。

「主は、ただの人だからなぁ。」

それは、あまりにも純粋な、そして明確過ぎる線引き。
審神者は、ばっさりと振られたのだ。

審神者は憔悴した。いや少しだけ大きく表現したが、しかしそれなりに落ち込んだ。なんとなく、御手杵なら色恋などよく分からないままに頷いてくれそうなイメージすらあったのだ。それがまさか、人だからという大きすぎるスケールで振られるとはこれいかに。
言うんじゃなかったと、絶望した。

それでも仕事はしなければならない。審神者も、子どもではないのだ。振られたからと避ける程、落ちぶれちゃいなかった。
表面上は普段通りに、心では思い切り流血しながらも、分け隔てなく接した。近侍も通常通り回し、出陣も普段通り。そして夜になると、なんだかむしゃくしゃして泣くのだ。

何より審神者の心を抉ったのは、御手杵が全く変わらない事だ。せめて少しくらい意識してよ、と言いたくなるほど、彼もまた変わらなかった。ヘラヘラと笑って話し掛けてくるし、楽しそうに過ごしている。
もしかして告白した事自体夢幻だったのでは、と思ってしまいそうになるほど、彼は普通だった。

御手杵と自分の温度差に傷付く審神者だったが、理性ではこれが仕方の無い事だと分かっているのだ。
なんせあちらは、振った側。こちらは振られた側。この件に関する衝撃の余波は明らかにこちらにあった。
向こうからしてみれば、所詮人如きが勘違いして熱を上げたように思えたのかもしれない。

そう思うと恥ずかしくて、審神者は全てを忘れるかのように仕事に没頭した。そしたらまあ、戦績が上がる。戦績が上がれば、評価も上がる。人は恋をすると綺麗になると聞くが、振られると逞しくなるのかもしれない。そんな事を思う程、いつの間にか審神者を取り巻く環境は変わっていた。

恋の記憶を忘れる為に没頭した仕事は、いつの間にか没頭しなければ終わらない程舞い込むようになった。刀剣たちも毎日忙しく動いていて、審神者はまさしく忙殺に近い状況で過ごしている。
そのおかげだろうか、前に比べると夜に泣く頻度は格段に減った。なんせ疲れる。布団に入ったら秒で寝るのだ。

だというのに、審神者のポンコツな脳みそは恋自体を忘れる事は出来ないらしい。御手杵が中庭でじゃれる姿や、出陣から帰還する姿を見る度に胸が踊るのだ。なんなら、目がそちらを探そうとしてしまう。彼の近くを通ってみたり、部屋の前を無駄に歩いたり。実にバカバカしい事であった。

それでも、審神者はもう二度と想いを告げる気はなかった。なんせ、人間である事だけは変えられない。辞めることも出来ない。つまり、脈なぞ僅かもなかったわけだ。
そのうち、恋など気軽には語れないような歳になった。婚期と呼べる期間をギリギリまで伸ばしても、御手杵が好きだった。

ついに婚期を逃して四十路を迎えると、恋なぞ目の錯覚、脳の錯乱だと言い聞かせるようになった。言い聞かせなければ、このポンコツな心は未だに御手杵相手に求愛のダンスみたいに跳ねるのだ。そろそろトキメキなのか動悸なのか微妙なところである。
自分だけが歳をとるのも、結構な辛さであった。

少しずつ水分含有量の減っていく肌、付いたら簡単には取れなくなった肉。自分で鏡を見ては、ため息を吐いてしまう。
御手杵は今日も変わらず若々しく、朗らかで、どこか抜けているというのに。
そんな御手杵相手に、未だ好きな気持ちを持ち続ける事が、なんだか罪のように思えてきた。

さて、ついに来たるは五十路だ。もうこうなると、御手杵と並んでも見た目年齢が親子である。これには審神者も、お手上げだった。息子でもおかしくないような見た目の御手杵に恋など、許されるはずがない。
誕生日を迎えたその日の夜、審神者は久しぶりに泣いた。持て余した恋心は、五十路には重い。

六十路になると、流石に恋は落ち着いた。

嘘だ。全然落ち着きゃしなかった。とはいえこの歳になってトキメキなんてもんはない。いやあるのかもしれないが、正直階段を登るだけで動悸息切れがするから、どれがトキメキだか分かりゃしない。気持ちは若いつもりなのだが、肉体はそうではないらしい。

それでも未婚で金がある分、見た目は年齢に対して比較的小綺麗だという自信はあった。まあ、それがなんだとも思うのだが。小綺麗だろうが、六十路は六十路である。なんならこの前、演練会場で他所の御手杵からばあちゃんと呼ばれた。死ぬかと思った。歌仙が御手杵の首を落とそうとした。

そう、もうばあちゃんなのだ。いいやまだ若いと言い返したくても、世間一般に言わせれば六十路はいよいよ社会を引退する準備が始まる頃合である。孫を持つ人も居る、そういう歳なのだ。

そんな歳になっても、まだ恋を引きずるのだ。いよいよ審神者は自分を振った御手杵を褒めたくなった。

こんな、いつまでも心が少女漫画みたいな女を番にするなど、きっと大変に違いない。御手杵があの時、何を思って振ったのかは知らない。だが、自分が六十路になって分かった事が一つある。

あの時の自分は、若い自分が永遠に続くのだと信じていた。
御手杵と、何十年先も、変わらぬ見た目で。

現実はそうではないのだ。御手杵は今日も若々しくて、背筋もピンと伸びている。
一方こちらは、身長もいつの間にか縮み出しているし、白髪染めが間に合わなくなってきた。まだ元気ではあるが、同じ話を繰り返している事を先日鯰尾から教えられた。穴を掘って埋まりたかった。

さて、そんなわけで審神者は、ついぞ御手杵を好きで居続けてしまった。なんと粘着質な想いだろうか。なんと諦めの悪い心だろうか。

なんと純粋な気持ちだろうか。

最早恋など、懐かしむものになった。そんな歳になっても、未だ胸が弾むのだ。なんならトキメキついでにポックリいきそうだった。

ぐにゃんと曲がった背中、しわしわの手。ほうれい線はくっきりと出て、耳も遠くなった。最近の近侍は大包平か山伏のどちらかだ。理由は当然、声がでかくて聞き取りやすいから。
こんなおばあちゃんになっても、まだ好きなのだ。審神者はもう、そんな自分の未練に笑えるやら呆れるやら。

とはいえ、今度ばかりはもう終わりだ。恐らくそう長くないうちに、この命は尽きる。それが分かっていたから、審神者はゆっくりと終活を始めた。大事な刀剣たちの今後をしっかりと決め、世話になった者達にも手紙を書いた。初期刀と初鍛刀には、それぞれに遺書という名の手紙を。

そして、少し迷って、ラブレターなんぞを書いてみた。
まあこれが恥ずかしい。書いてみて、すぐにくしゃくしゃにした。やはりこんなものは、不要だ。屑籠に入れたラブレターは、その後堀川によって火にくべられた。

その翌月、審神者は本丸で息を引き取った。
最期の最後まで、恋をしたまま。

さて、その枕元で、御手杵はゆっくりと立ち上がる。

「じゃ、迎えに行ってくるなぁ。」

その背に、歌仙の少しだけ厳しい声が掛かる。

「必ず戻って来るんだよ。」
「おう。」

にっと笑って、御手杵が目を閉じる。ぐらりと倒れかけた身体を、鯰尾と青江が支えた。

「全く、彼も意外と固いよねぇ……意志の事だよ?」
「ああ。まさか本当に人の輪を外れやすい時まで待つなんてね。」
「ま、それだけ本気だったって事でしょ!」

鯰尾の言葉に、一同が頷く。
審神者だけが知らない、御手杵の本音。

人でなければ、嫁に出来るのに。

彼もまた、純粋だったのだ。

20↑。字書き。なんか色々やりたい放題書き散らかしてます。プロフ画と上の長い絵は自分で必死に描きました。

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  3. 2021/05/23 02:26:10 公開
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