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「「刀剣男士に恋なんて、おすすめ...」、@97hatopoppo さんからのスレッド

「刀剣男士に恋なんて、おすすめしないわよ。」

老いた審神者は、そう言って笑った。とても上品で、優しくて、そして少し教育的な声をしているその人は、演練で知り合って以来仲良くさせてもらっている。私は心の中で彼女の事を密かに、先生と呼んでいた。

「だって彼らは、刀ですもの。」

先生の本丸は広い。先生は長く勤めているから自然とこうなった、なんて言うけど、これは間違いなく戦績に見合った広さだ。
その立派な中庭で、先生の近侍を務める歌仙と私の近侍として着いてきた和泉守が話をしている。ちなみに和泉守は、先生の歌仙が少し苦手らしい。

「彼らが、何故あんなに美しい顏をしているか分かる?」
「えっと……神様だから……?」

私の答えに、先生は優しく笑った。

「半分正解ね。彼らは、愛される為に美しく受肉するの。人は醜いものに信仰を向けないでしょう。」

その言葉に、私は思わず納得した。

もしも、刀剣男士達が醜男ばかりだったら。汗臭くて、汚くて、太っていたら……私はきっと、審神者を続けられていない。

「人ってね、身勝手なの。美しいものには笑顔を向けて、汚いものには眉を顰める。彼らはそれを知っているのよ。」
「……そんなの、彼らから軽蔑されませんか。」

自分だってそんなに美人でもないのに、周りにはそれを求める。人の浅ましさを自分もしっかり持っていたことに、私は気まずくなった。でも先生は、何言ってるのと私の背中を優しく撫でる。

「そんなわけないでしょう。だって、人がそういう生き物だと彼らは本能で知ってるんだから。」

腹を空かせたサバンナのライオンがウサギを食べたとて、ライオンを悪く言うものは居ない。それと同じだと、先生は言った。

「彼らは人をよく見てるわ。こうすれば好かれる、愛されるって。でもその根底にあるのは、人の心じゃないの。」

物の、本能よ。

その言葉は、私の心を強く抉った。

「でも、あなたにはまだきっと、分からないかもしれないわね。」

先生は立ち上がると、ちょっと待っていてねと言って執務室に入っていく。私は縁側で、何やら句の稽古を始めた二振りを眺めていた。和泉守の句を見た歌仙が、絶句している。うちの和泉守の語彙力は、小学生レベルなのだ。

先生は、案外直ぐに帰ってきた。その手に、一枚の写真を持って。

「これ、ご覧なさい。」

そこに写っていたのは、今の私よりもう少し幼い顔の先生だ。その隣には、陸奥守が立っている。

「それは私が本丸に就任した時の写真。」

私は、思わず顔を上げた。
だって、先生の近侍はずっと、歌仙だ。

「陸奥守……は……。」
「……歌仙は、初期刀ではないの。私の初期刀は、陸奥守。練度八十で、折れてしまったのよ。」

私の手にある写真を、先生はじっと見詰めている。そのまま、視線を動かさないまま、先生は言った。

「私ね、陸奥守に惚れていたの。生娘だったから、すぐ好きになっちゃった。」

先生は、女子校育ちだったらしい。男への耐性なんて恋愛小説でしか見ないような状態だった先生にとって、陸奥守は【男】という存在を意識するには十分だった。

「陸奥守も、喜んでくれていたの。私は舞い上がったわ。だって初恋ですもの。その相手が神様で、私の初期刀……運命だって、思ってた。」

でも違った、と先生は小さく言った。

「陸奥守が喜んでいたのは、持ち主の意識が自分に向いていたから。持ち主にとっての一番が得られたからだった。」

先生の手が、写真を掴む。汚れ一つないその写真は、執務室のどこにあったのだろう。

「二十二の時にね、私から結婚したいと言ったの。」

「彼は、心底驚いていたわ。そしてこう言ったのよ。」

結婚?
そがな事、主とわしでしてもなんにもならんぜよ。

「私は、その時に初めて気付いたの。惚れていたのは私だけ、彼にとってはただの主でしかなかったんだって。」

それから一年もしないうちに、陸奥守は戦場で折れたらしい。

「彼らは思わせ振りな言葉を使うわ。綺麗な顔と逞しい体で。でもそれは、彼らの本質。人に気に入られる事で生き延びられる事を身をもって知っている、彼らの在り方よ。」

先生は、私の頬を優しく撫でた。

「それでも好きなら、覚悟なさいね。老いても、骨になっても片想いをする覚悟を。」

私は、頷きと俯きの間のような、辺な動きでそれに応えた。老いても、骨になっても。そんなの、ピンとこない。
そんな私の困惑などお見通しな先生は、今はまだ悩まなくて良いわよとあっさり私を思考の渦から引き上げてくれた。

先生は、まだ陸奥守が好きなのか。
その質問は、流石に出来なかった。

まさか、その会話が最後の会話になるだなんて、誰が思っていただろう。先生の本丸に遊びに行った、その二週間後に先生は急逝した。私と知り合う少し前から、大病を患っていたらしい。何一つ知らなかった。あんなに優しくしてもらったのに。

布団の中で穏やかに横たわる先生の顔は、穏やかだった。

先生の遺言状は担当官が管理していて、先生の希望に合わせて本丸での小さな葬儀を執り行った。私も参列し、交流のあった刀剣男士を数振り連れて行った。
知り合いの多かったらしい先生の葬儀には、沢山の審神者や刀剣男士が来ていた。皆、悲しみの色を隠せていない。私も、なんだか脱力していた。

いよいよ出棺の時。歌仙が何かを棺に入れた。私は、棺から目が離せなかった。何故かは分からない。でも、何かあるような気がした。
先生の入る棺を、岩融や蜻蛉切と言った力自慢達が持ち上げる。

その時、白と黒の垂れ幕が、一斉にはためいた。

桜の花びらが、ふわりと舞う。

棺の前に、誰かが立った。
ここに、唯一居なかった刀剣男士。
先生の、本当の初期刀。

「主、わしも一緒に行くがよ。」

彼はそう言って、どこか嬉しそうに先生の棺に寄り添った。誰も気付いていないのか、驚く声は上がらない。私は、どうして良いか分からずにただじっと見ていた。

隣を通り過ぎる時、陸奥守が私を見た。そして、酷く優しい顔で、口元に指を持っていく。しい、と内緒のポーズをするその姿は、どことなく先生に似ていた。

それでも好きなら、覚悟なさいね。老いても、骨になっても片想いをする覚悟を。

先生の言葉の意味が、なんとなく分かった。

死んでも尚、こんな風に迎えに来てしまうのだ、彼らは。
なるほど、これは確かに、片想いを止められないだろう。

棺が通り過ぎたあと、その道にはひらひらと桜が落ちていた。

陸奥守が、どんな気持ちで先生を迎えに来たのかは分からない。でも、待っていたのは事実なのだろう。

「人の一生じゃあ、足りないって事かなぁ……。」

ぽつりと零した私の言葉は、刀剣たちの葬送の唄に掻き消された。
私の時も、和泉守は迎えに来てくれるのだろうか。
その問いに、答えてくれる先生はもう居ない。

ただ一つ分かるのは、きっと私も骨になろうと片想いをするのだ。

これからあと、数十年。刀剣男士にはもしかしたら短いだろうその期間を使って、覚悟を決めていこう。
死んだ時、あの陸奥守のように、棺に寄り添ってもらえれば御の字である。その思う為の、覚悟を。

「あら、刀剣男士との恋は、おすすめしませんよ。」

私の言葉に、若い審神者は眉を落とした。素直な反応が愛らしくて、私はつい笑ってしまう。
かつての私も、こうだったのかもしれない。

「だって、彼らは刀だもの。」

庭先で、彼女の近侍を務める加州と話をする和泉守を見る。

彼が、どう寄り添ってくれるのか。私に確認する術はない。

「それでも好きなら、骨になっても片想いをし続ける覚悟を決めなさいね。」

この恋は、成就しない。
彼らが、刀である限り。

「彼らは愛してくれても、惚れてはくれないの。」

この恋は、まさに命懸けなのだ。

20↑。字書き。なんか色々やりたい放題書き散らかしてます。プロフ画と上の長い絵は自分で必死に描きました。

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  3. 2021/05/25 00:14:54 公開
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